出店候補地が2つ3つに絞られたあと、「では立地調査をしましょう」となったときに困るのは、何をどこまで調べれば調査を終えたことになるのかが決まっていないことです。通行量を数えればよいのか、人口を集めればよいのか、競合を回ればよいのか。人によって出てくる答えが違います。

実は、これは調べ方が悪いのではありません。立地調査には、国が定めた標準手法が存在しないからです。この記事では、行政が公表している数少ない資料と、国土交通省が実測した「通行量と売上の相関」のデータをもとに、公的データだけで立地調査を組み立てる手順を整理します。商圏分析全体の流れから確認したい方は、商圏分析のやり方 完全ガイドにデータ入手から出店判断までの手順をまとめています。

結論

立地調査に公的な標準手法はありません。官公庁がまとまった形で調査項目を示しているのは、中小企業庁が2003年に出した商業活性化のマニュアルと、フランチャイズの法定開示に関する業界団体のQ&Aくらいです。だからこそ、先に「何を測るか」を自分で決めてから数字を集める順番が効きます。おすすめは、①母数(到達圏の人口)②競合(事業所の分布)③通行(人と車の量)④購買力(所得・支出)の4層に分け、各層で公的統計を1つずつ当てる進め方です。なお通行量は万能ではありません。国土交通省の分析では、通行量と店舗数の相関係数は小売業0.70〜0.75に対し飲食業は0.21〜0.24で、通行量と床面積あたり売上高の決定係数はR²=0.33にとどまります。

この記事の要点
  • 官公庁が調査項目をまとめて示した資料は、中小企業庁「実践行動マニュアル」(平成15年11月)のⅠ-5.商圏調査がほぼ唯一。ここに商圏設定の5要因が列挙されている
  • 同マニュアルは「商圏は半径○○kmといった単純な形ではなく…不規則な雲型になります」と明記している。円で切るのは便宜的な近似にすぎない
  • 通行量と経済指標の相関は業種で大きく違う。小売業0.70〜0.75/飲食業0.21〜0.24(国土交通省ガイドライン)。飲食店の立地を通行量だけで判定すると外れる
  • 売上予測を人に示す場面では、公正取引委員会が「類似した環境にある既存店舗の実績等根拠ある事実、合理的な算定方法等に基づくことが必要」としている。根拠を示せない予測は開示の要件を満たさない
  • 開業者の約4割が事前に予想した月商に届いていない(日本政策金融公庫 2025年度調査。予想月商達成率100%未満が41.3%)

立地調査に「正解の手順」が無い理由

橋の点検や建物の検査と違い、立地調査には法令も告示も存在しません。誰がどこまで調べるかは全部が任意で、調査会社ごとに項目も価格もばらばらです。「立地調査 費用」という検索が多いのも、比較する基準が無いからです。

さらに、立地調査の的中率を測った官公庁の調査も見当たりません。近い数字としては、日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日公表)にある予想月商達成率があります。開業後1年以内の企業2,024社の回答では、予想した月商に対する実績は次のとおりでした。

予想月商達成率割合
50%未満10.5%
50〜75%未満16.6%
75〜100%未満14.2%
100〜125%未満24.5%
125%以上34.2%

予想に届かなかった側の合計が41.3%、予想の半分にも届かなかった開業者が10.5%です。ただしこれは全業種の新規開業が対象で、立地調査をしたかどうかは問われていません。「立地調査をしても4割外れる」という意味ではなく、「事前の売上見込みは、この程度の幅で外れるものだ」という前提として読むべき数字です。同じ設問は2023年度・2024年度もほぼ同じ分布で、年による大きな変動はありません。

国が示している唯一のまとまった調査項目

行政の資料で、立地・商圏の調査項目をまとまった形で示しているものは限られます。確認できたのは、中小企業庁が発行した「実践行動マニュアル 平成15年度 中心市街地活性化におけるテナントミックスの手法に関する調査研究事業[概要版]」(平成15年11月)です。中心市街地活性化のための資料であって創業の手引きではありませんが、Ⅰ-5に「商圏調査」の節があり、商圏の定義と設定要因が列挙されています。

商圏の定義はこう書かれています。

「来街・来店しているお客さまの居住範囲を『商圏』と呼びます。商圏には現在お客さまが来ている地理上の範囲である現状の商圏と、新たなお客さまとなる可能性を持つ潜在商圏があります。又、商圏は各店舗の規模や業種業態によって異なり、一般的に最寄品は狭く、買回り品は広くなります。」

そして商圏設定にかかわる主な要因として、次の5つが挙げられています。この5分類は、いま自分が何を調べていて何を調べていないかを点検するチェックリストとして使えます。

要因内容(マニュアルの記載)
アクセス上の要因鉄道・バス・道路などの交通アクセス(便数、渋滞状況)/それぞれの所要時間別距離範囲。最寄品では狭く、高額商品では広くなる
競合上の要因競合都市・地区、競合店の分布とそれぞれの商圏範囲
地理的要因河川や山、森林、田畑、工場群などの地理的条件
社会生活要因中学校の学校区、公民館の区域/病院・医療機関(お年寄りの行動範囲の元になる)
心理的要因生活行動や習慣(通勤・通学路の方角)/上位都市方向への志向性

注目したいのは社会生活要因と心理的要因です。中学校の学区や、最寄駅より手前か先かという方向の心理は、どんな統計にも載っていません。公的データで埋まるのは前の3つまで——ここを最初に線引きしておくと、「データを集めたのに判断できない」という詰まり方をしなくなります。

もう1つ、フランチャイズ本部が法定開示で示すべき立地条件の分析の判断要素が、日本フランチャイズチェーン協会のQ&Aに列挙されています。業界団体の資料ですが、開示実務の標準として通用しているものです。

  • 周辺の就業人口、世帯人口
  • 周辺の交通量
  • 公共交通機関等の施設の有無
  • 営業時間
  • 立地区分(幹線道路沿い・街中立地・住宅街立地・施設内立地・特殊立地等)
  • 契約形態
  • 競争環境
  • その他業態固有の要素

フランチャイズ本部の視点はフランチャイズ出店の立地の選び方で扱っていますが、直営出店でもこの8項目はそのまま評価軸として使えます。

公的データを4層に割り当てる

調べる項目が決まったら、次はどの統計を当てるかです。層ごとに1つずつ決めておくと、候補地が増えても手順が変わりません。

使う統計2026年8月時点の最新年次
① 母数(人口)国勢調査(地域メッシュ統計・従業地通学地集計)2020年(令和2年)。2025年調査は速報段階
② 競合(事業所)経済センサス‐活動調査/基礎調査活動調査 2021年/基礎調査 2024年
③ 通行(人・車)全国道路・街路交通情勢調査(道路交通センサス)/自治体の歩行者通行量調査一般交通量調査 2021年度(2023年6月30日公表)
④ 購買力家計調査/全国家計構造調査/市町村税の課税状況家計調査 年次2025年/全国家計構造調査 2024年

①の人口は、市区町村単位では粗すぎて出店判断に使えません。500mメッシュまで落とすと候補地ごとの差が出ます。取得手順は国勢調査の500mメッシュ人口を無料で入手する手順に、地図上で集計する方法はjSTAT MAPの使い方とできること・できないことにまとめています。オフィス街や学生街のように昼と夜で人が入れ替わる場所では、昼間人口と夜間人口の違いと調べ方の切り分けが要ります。

③の通行量には注意点が2つあります。1つは更新間隔が長いこと。道路交通センサスの一般交通量調査は数年おきで、最新の公表は2021年度分です。もう1つは人手による計測に系統的な誤差があることです。国土交通省のガイドラインは既往研究を引いて「人手によって自動車の交通量を調査する際の精度について、既往研究では、観測台数が増加するほどマイナスの誤差率が大きくなることが示されています」と注意を促しています。交通量が多い地点ほど少なめに数えられる傾向があるということです。あわせて、調査日がイベント開催や商業施設の竣工直後と重なれば通常より多く出ますし、天候でも変わります。

駅前立地なら乗降客数も母数の指標になります。見晴は国土数値情報の駅別乗降客数データ(S12)令和6年版を使い、1都3県1,621駅を収録しています(最新年次は令和5年度の1日平均乗降客数)。同じ駅が路線ごとに重複計上されるという落とし穴があるので、自前で集計する場合は駅の乗降客数を無料で調べる方法の手順を確認してください。「乗降客数」と鉄道会社が公表する「乗車人員」は定義が違い、数字が倍近くずれます。

④の購買力は、家計調査の品目別支出に商圏人口を掛けて市場規模を推計する使い方が基本です。地域差を見たい場合は市区町村別の平均所得を無料で調べる方法で納税者1人あたりの所得を当たれます。

通行量は業種で効き方が変わる

立地調査でいちばん誤用されやすいのが通行量です。国土交通省都市局の「まちの活性化を測る歩行者量調査のガイドライン(ver1.1)」(平成31年3月)は、業種別店舗数と歩行者通行量の相関係数を示しています。

業種平日休日
小売業0.700.75
金融・保険業0.280.15
飲食業0.210.24
サービス業0.200.15
不動産業0.080.01

ガイドラインは「小売業店舗数が歩行者量(通行量)との相関が高いことが示されています」と述べています。裏を返せば、飲食業では通行量との関係がほとんど見られません。飲食は目的来店の比率が高く、通りがかりの量が売上に直結しないためです。飲食店の商圏の考え方は飲食店の商圏範囲と商圏人口の目安で、日常買回りの代表である食品スーパーはスーパーの商圏人口と商圏範囲の目安で扱っています。

さらに国土交通省は、認定中心市街地活性化基本計画のある68都市について、通行量と床面積あたり売上高の相関分析を自ら行っています。結果は次のとおりです。

回帰式 y = 1E-05x + 0.5162、決定係数 R² = 0.3304(x=歩行者量〔人/12h〕、y=売上高〔百万円/㎡〕)

R²が0.33ということは、通行量だけでは売上のばらつきの3分の1しか説明できないということです。相関は確かにあるけれども、残り3分の2は別の要因で決まる。通行量が多い=売れる、という一本足の判断がなぜ外れるのかを、国の分析がそのまま示しています。

一方で、通行量と路線価の相関はもっと強く出ます。同ガイドラインが福井市・熊本市について分析した決定係数はR²=0.4896とR²=0.8307で、「同じ都市の商業地においては、歩行者量(通行量・密度)が多い地点ほど、沿道の地価が高い傾向があるといえます」と結論づけています。つまり通行量は売上より先に賃料に効きます。通行量の多い場所を選ぶことは、コストを先に確定させることでもあります。

円で切ると何がずれるか

候補地を比べるとき、半径◯kmの円で人口を集計するのは手軽です。ただし前掲の中小企業庁マニュアルは、はっきりこう書いています。

「商圏は半径○○kmといった単純な形ではなく、上記の各要因の影響から、不規則な雲型になります。」

川や線路、坂、幹線道路の中央分離帯——地図上では数百mでも、実際には歩いて行けない場所があります。見晴のデモに入っている4店舗の実測でも、半径4km圏の夜間人口が32.1万人に対し、徒歩10分の到達圏では1.7万人、車15分の到達圏では37.6万人(2026年7月23日時点)と、切り方で母数が20倍以上変わります。円と実際の到達圏がどれだけずれるかは円商圏と実勢商圏はどれだけズレるかで具体的に比べています。

競合との取り合いを確率で配分する方法としてはハフモデルが知られていますが、パラメータを自分のデータで推定できないと実務では使いにくく、日本の公的制度でもすでに使われていません。まずは到達圏の実人口を数えるほうが先です。手順は商圏人口の調べ方。無料で算出する4ステップにまとめています。

売上予測を人に示すときの要件

立地調査は、たいてい社内の稟議や金融機関への説明とセットになります。ここで押さえておきたいのが、公正取引委員会の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(平成14年4月24日制定、令和3年4月28日最終改正)の記述です。フランチャイズ本部が加盟希望者を募る場面のルールですが、根拠の水準の考え方は一般化できます。

「予想売上げ又は予想収益を提示する場合には、類似した環境にある既存店舗の実績等根拠ある事実、合理的な算定方法等に基づくことが必要であり、また、本部は、加盟希望者に、これらの根拠となる事実、算定方法等を示す必要がある」

ポイントは「類似した環境にある既存店舗の実績」という表現です。予測の根拠として求められているのは、精緻なモデルではなく比較できる実例だという整理になっています。自社の既存店のうち、商圏人口・昼間人口・競合数が近い店を並べて実績を当てる——立地調査の成果物としてもっとも説得力があるのはこの形です。

なお、この考え方に沿わない誇大な提示は、不公正な取引方法のうちぎまん的顧客誘引に該当しうるとされています。予測を示す立場になったときは、数字そのものより「どの店と比べたか」を残すほうが重要になります。

7日でひととおり終える進め方

  1. 測る指標を先に決める(半日)。上の4層それぞれで「この数字を見て判断する」を1つずつ書き出す。候補地が複数あるなら、全候補で同じ指標を揃えることが最優先
  2. 到達圏の母数を出す(1日)。徒歩10分・車15分など、業態に合った到達圏で人口を集計する。円で代用する場合は「円で見ている」と明記しておく
  3. 昼夜の入れ替わりを確認する(半日)。夜間人口だけで判断しない。オフィス街・学生街・住宅地で処方が変わる
  4. 競合を数える(1日)。経済センサスで業種別の事業所数を取り、地図に落とす。大型店は商圏が広いので、隣接市区町村まで見る
  5. 通行と交通を当てる(1日)。業態によって重みを変える。小売なら通行量、飲食なら目的来店の導線と駐車場
  6. 現地を歩く(1日)。学区・坂・分離帯・信号の待ち時間など、統計に出ない要因を確認する。ここは公的手法が存在しない領域なので、写真と時刻を残す
  7. 類似店と並べる(1日)。自社または公開情報で比較できる店を3つ選び、①〜⑤の指標を横並びにする。ここまで作れば、稟議でも金融機関でも同じ資料が使える

参考までに、商店街の側から見た環境変化も押さえておくと判断が立体的になります。全国商店街振興組合連合会の「令和6年度 商店街実態調査報告書」(令和7年6月)では、商店街が抱える問題として「経営者の高齢化による後継者問題」64.9%、「店舗等の老朽化」37.2%、「商圏人口の減少」31.1%が上位に挙がっています。空き店舗率は平均11.30%で、前回調査の13.59%から2.29ポイント下がりました。空きが減っているのは需要が戻ったからとは限らず、店舗が住宅等へ転用された結果も含みます。数字の向きだけで読まないほうが安全です。

なお、一定の規模を超える大規模小売店舗の出店では、大規模小売店舗立地法に基づく届出と手続の期間が必要になります。対象となる店舗面積の基準と手続の流れは法令・政令で定められているので、規模が大きい計画では早い段階で原典と自治体の窓口を確認してください。

よくある質問

Q. 立地調査に決まったやり方はありますか。
A. ありません。法令や告示で定められた標準手法は存在せず、的中率を測った官公庁の調査も確認できませんでした。官公庁が調査項目をまとまった形で示しているのは、中小企業庁の「実践行動マニュアル」(平成15年11月)Ⅰ-5.商圏調査がほぼ唯一で、ここに商圏設定の5要因(アクセス・競合・地理・社会生活・心理)が列挙されています。

Q. 通行量が多い場所を選べば売れますか。
A. 業種によります。国土交通省のガイドラインによると、歩行者通行量と店舗数の相関係数は小売業で平日0.70・休日0.75と高い一方、飲食業では平日0.21・休日0.24とほとんど相関がありません。また同省が68都市について行った分析では、通行量と床面積あたり売上高の決定係数はR²=0.33で、通行量だけでは売上のばらつきの3分の1しか説明できません。一方で通行量と路線価の相関はより強く、通行量の多い立地は賃料が先に上がります。

Q. 商圏は半径何kmで切ればよいですか。
A. 中小企業庁のマニュアルは「商圏は半径○○kmといった単純な形ではなく…不規則な雲型になります」と明記しています。円は便宜的な近似です。見晴のデモ4店舗の実測でも、半径4km圏の夜間人口32.1万人に対し徒歩10分の到達圏は1.7万人、車15分は37.6万人で、切り方によって母数が20倍以上変わります。円で集計する場合は、そのことを資料に明記しておくのが安全です。

Q. 売上予測はどこまでの根拠が必要ですか。
A. 公正取引委員会のフランチャイズ・ガイドラインは「予想売上げ又は予想収益を提示する場合には、類似した環境にある既存店舗の実績等根拠ある事実、合理的な算定方法等に基づくことが必要」としています。求められているのは精緻なモデルではなく、比較できる実例と算定方法の開示です。なお日本政策金融公庫の2025年度調査では、開業者の41.3%が事前に予想した月商に届いていません。