出店の判断で本当に効くのは、いまの商圏人口ではなく契約期間が終わるころの商圏人口です。店舗の賃貸借は10年、設備の償却は5〜15年で回ります。ところが商圏レポートに載る数字は、たいてい現在または過去のものだけです。

将来の人口は、国が市区町村単位で推計して公開しています。無料で、誰でも、登録なしで取れます。この記事では、その推計が何を前提にしているのかを原典で確認したうえで、商圏の母数に掛けるときにどこで間違えるのかを整理します。商圏分析全体の流れから確認したい方は商圏分析のやり方 完全ガイドを先にご覧ください。

この記事の要点
  • 市区町村別の将来推計人口は国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」が現行版。2020年を起点に2050年まで5年刻み
  • 対象は令和5年12月1日現在の1,883市区町村+福島県「浜通り地域」=1,884地域。政令指定都市は区単位で推計されている
  • 2045〜2050年には98.9%の市区町村で総人口が減少する推計。2020年比で100を下回るのは1,651市区町村(95.5%)
  • 推計はコーホート要因法で、基準人口は令和2年国勢調査。前提が変われば数字も変わる推計値であって予定値ではない
  • 出てくるのは市区町村の合計値だけ。町丁目やメッシュ単位の将来推計は公表されていないので、商圏に落とすには変換の考え方が要る

将来推計人口とは何か

「将来推計人口」と呼ばれるものは、実は2種類あります。混ざると読み違えるので、先に分けます。

名称単位用途
日本の将来推計人口(令和5年推計)全国のみ国全体の総人口・年齢構成の見通し。出生・死亡の仮定ごとに複数の推計がある
日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)市区町村別(政令市は区別)出店判断・自治体計画。商圏分析で使うのはこちら

地域別の推計は、全国推計を土台にして市区町村へ割り付ける構造になっています。報告書には「この新しい推計の結果は、国立社会保障・人口問題研究所がすでに公表した『日本の将来推計人口(令和5年推計)』(出生中位・死亡中位仮定)による男女・年齢別推計人口の値と合致する」と明記されています。つまり地域別の推計は、全国推計の出生中位・死亡中位という1本の仮定の上に立っています。地域別には「高位」「低位」の系列がありません。

推計期間は令和2(2020)年から令和32(2050)年まで、5年ごとの30年間です。2025年、2030年、2035年…という刻みで数字が出ます。年単位の値はありません。

どこで手に入るか

公表元は国立社会保障・人口問題研究所です。市区町村別の数値は同研究所のサイトで公開されており、登録も申請も要りません。

1推計の入口社人研「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」のページを開く(ipss.go.jp
2前提を読む「結果の概要」(PDF)で推計方法・対象地域・基準人口を確認する。ここを飛ばすと数字の意味を取り違える
3数値を取る「都道府県・市区町村別の男女・年齢(5歳)階級別将来推計人口」から、対象自治体の総人口と年齢階級別人口を取得する
4指数に直す2020年を100としたときの各年の指数を計算する。商圏に掛けるのは実数ではなくこの指数

報告書の概要版では個々の市区町村の結果は割愛されており、「個々の市区町村の将来人口推計結果は、国立社会保障・人口問題研究所ホームページにて公表する」と案内されています。概要PDFだけを見て「自分の街の数字が無い」と判断しないでください。

推計の前提を先に押さえる

推計値は、仮定を積み上げた計算結果です。何を積んでいるのかを知らずに使うと、外れたときに説明ができません。報告書が示している前提は次のとおりです。

項目内容
推計方法5歳以上の年齢階級はコーホート要因法。ある年の男女・年齢別人口を基準に、人口動態率などの仮定値を当てはめて将来人口を計算する
0〜4歳の扱い市区町村別の出生率は年による変動が大きいため、子ども女性比および0-4歳性比の仮定値で推計している
基準人口総務省統計局「国勢調査報告」による令和2(2020)年10月1日現在の市区町村別・男女・年齢(5歳階級)別人口。不詳補完結果を使用
対象地域令和5(2023)年12月1日現在の1,883市区町村(東京23区、20政令指定都市の175区、769市、736町、180村)と福島県「浜通り地域」の計1,884地域
福島県の扱い浜通り地域の13市町村は東日本大震災と原発事故の影響が長期に及ぶため、1つの地域にまとめて推計されている

実務で効いてくるのは基準人口が2020年であることです。2026年の時点で、起点はすでに6年前です。この6年間に大きく動いた自治体(再開発、大規模工場の進出や撤退、大学の移転など)では、推計の出発点と現実がずれています。昼間人口国勢調査の500mメッシュ人口と同じで、国勢調査ベースの数字はすべてこの起点を共有していることを覚えておくと、年次の食い違いに悩まなくなります。

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)-令和2(2020)〜32(2050)年-」(令和5年)。数値は同報告書の記載によります。最新の公表状況は社人研の公式ページでご確認ください。

2050年に何が起きる推計なのか

自分の街の数字を見る前に、全体の形を知っておくと、出てきた指数が「よい方」なのか「悪い方」なのかを判断できます。報告書が挙げている代表的な結果を並べます。以下の割合は令和5年12月1日現在の1,728市区町村に組み替えた集計にもとづく値です(東京23区と政令指定都市をそれぞれ1団体として数えた単位)。

期間総人口が減少する市区町村数割合
2015〜2020年(国勢調査の実績値)1,41681.9%
2025〜2030年(推計)1,61093.2%
2035〜2040年(推計)1,67496.9%
2045〜2050年(推計)1,70998.9%

2020年を100としたときの2050年の指数でみると、指数が100以上、つまり2050年の総人口が2020年以上になる市区町村は77(4.5%)にとどまり、残る1,651市区町村(95.5%)は100を下回ります。参考までに全国推計の指数は83.0です。

規模別の変化も、出店計画の前提を揺らします。総人口5千人未満の市区町村は2020年の283から2050年には482へ増加し、1,728市区町村に占める割合は16.4%から27.9%になります。一方で総人口5万人以上の市区町村数は523から411へ減少します。

これは「どこも同じように減る」という話ではありません。4.5%は増えます。減るかどうかではなく、自分の候補地がどちら側かを個別に確認することが、この推計の使い方です。

商圏に落とすときに間違える3か所

市区町村の推計を商圏の数字として扱うときに、実務でつまずくのは次の3点です。

間違えやすい点なぜ問題かどうするか
市区町村の増減率を、そのまま商圏の増減率として使う商圏は市区町村の境界と一致しない。同じ市の中でも、駅前と郊外の団地では人口動態が逆を向くことがある商圏が複数自治体にまたがる場合は自治体ごとに指数を出し、商圏内人口の構成比で加重平均する
総人口の指数だけを見る業態によって効く年齢層が違う。総人口が横ばいでも、0〜14歳が半減していれば学習塾や小児科の商圏は消えている5歳階級別の推計が公表されているので、自分の業態のターゲット層で指数を作る
推計値を確定した予定として扱うコーホート要因法は仮定値の積み上げ。移動率の仮定は近年の実績を基にしており、大規模な開発や政策変更は織り込まれていないレポートには「令和5年推計・出生中位死亡中位の前提による推計値」と年次と仮定を明記する

そして最大の制約は、町丁目やメッシュ単位の将来推計は公表されていないことです。現在の商圏人口は500mメッシュや町丁目で細かく出せますが、将来は市区町村(政令市は区)までしか割られていません。徒歩10分圏だけの2040年人口という数字は、公的統計としては存在しません。

現在の商圏人口に将来を掛ける手順

細かい将来推計が無い以上、実務では「現在の商圏人口 × 所属自治体の将来指数」という近似を使うことになります。近似であることを承知したうえで、次の順で組み立てると説明できるレポートになります。

1現在を測るまず現在の商圏人口を確定させる。手順は商圏人口の調べ方のとおり。範囲の切り方で母数は大きく変わるので先に決める
2帰属を決める商圏がどの自治体にどれだけかかっているかを、メッシュ人口の合計で按分する。1自治体に収まるなら按分は不要
3指数を作る自治体ごとに2020年=100の指数を、対象年(例:2035年、2040年)とターゲット年齢層で出す
4掛けて幅で出す現在の商圏人口に指数を掛ける。単一の数字ではなく、総人口ベースとターゲット層ベースの2本を並べて幅として示す

見晴のデモ4店舗で実測した商圏人口は、同じ地点でも切り方でこれだけ変わります(2026年7月23日時点・夜間人口)。

範囲の切り方夜間人口(デモ4店舗の合計)
徒歩10分圏1.7万人
半径4km圏32.1万人
車15分圏37.6万人

母数が約22倍動く以上、将来の指数を1%単位で詰める意味はほとんどありません。範囲の定義を固定してから、将来の方向と大きさを見るという順番が現実的です。円と実際の来店範囲の差については円商圏と実勢商圏のズレで扱っています。

よくある質問

Q. 市区町村別の将来推計人口はどこで無料で見られますか。
A. 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」のページで公開されています。登録も申請も不要です。概要のPDFには個々の市区町村の結果は載っておらず、報告書自体が「個々の市区町村の将来人口推計結果は、国立社会保障・人口問題研究所ホームページにて公表する」と案内しています。市区町村別の数値は同サイトの「都道府県・市区町村別の男女・年齢(5歳)階級別将来推計人口」から取得してください。

Q. 何年から何年までの数字が出ますか。
A. 令和2(2020)年から令和32(2050)年まで、5年ごとの30年間です。年単位の値はありません。基準人口は令和2年国勢調査の市区町村別・男女・年齢(5歳階級)別人口(不詳補完結果)です。

Q. 出生率が高いケース・低いケースの推計はありますか。
A. 地域別推計にはありません。地域別の結果は、全国推計の「出生中位・死亡中位」の値と合致するように作られており、この1本だけです。高位・低位の系列があるのは全国推計のほうです。レポートに書くときは「出生中位・死亡中位の前提による」と添えてください。

Q. 町丁目や500mメッシュ単位の将来推計はありますか。
A. 公的統計としては確認できませんでした。地域別将来推計人口が割っているのは市区町村(政令指定都市は区)までです。現在の人口は町丁目やメッシュまで細かく出せますが、将来はその粒度では公表されていません。徒歩10分圏だけの将来人口が必要な場合は、市区町村の指数を当てる近似になり、その旨をレポートに明記する必要があります。

Q. 2050年に人口が増える市区町村もあるのですか。
A. あります。2020年を100とした指数が100以上になる市区町村は77で、全体の4.5%です。残る1,651市区町村(95.5%)は100を下回ります。「どこも減る」という前提で候補地を切り落とすと、増える側を見落とします。

Q. 推計はどのくらい信用してよいですか。
A. 推計はコーホート要因法という手法で、生残率・移動率・子ども女性比・0-4歳性比といった仮定値を積み上げた計算結果です。大規模開発や政策変更のような個別の事情は織り込まれていません。方向と桁を判断する材料としては十分ですが、確定した予定として扱うものではありません。使うときは推計の名称・年次・仮定を必ず併記してください。