商圏の人口を出したあと、必ず次に聞かれるのが「で、そこに同業は何軒あるんですか」です。人口だけでは、その市場が空いているのか埋まっているのかが分かりません。
この「何軒あるか」を国が全国一律の基準で数えているのが経済センサスです。無料で、登録なしで取れます。ただし取れる粒度と最新性がトレードオフになっているという、使う前に知っておかないと必ずつまずく性質があります。この記事では、まず何をどこまで数えられるのかを一次情報で確認し、そのうえで商圏に落とすときの現実的な使い方を整理します。商圏分析全体の流れから確認したい方は商圏分析のやり方 完全ガイドを先にご覧ください。
- 経済センサスは「基礎調査」と「活動調査」の2本立て。軒数を最新で知りたいなら基礎調査、売上や費用まで見たいなら活動調査
- 最新の事業所数は402万3941事業所(2024年6月1日現在・令和6年基礎調査 確報)。確報の公表は2025年12月24日
- この402万を令和3年の515万と並べてはいけない。令和6年は「雇用者のいない個人経営の事業所」を対象外にしており、統計局自身が比較に留意と明記している
- 業種は日本標準産業分類で絞る。市区町村別なら小分類(例: 783 美容業)まで取れる
- 公表されている最小の行政区域は市区町村。町丁目単位の集計表は確認できず、それより細かく見るなら約500m・約1kmのメッシュになるが、こちらは2021年時点
- 事業所数は店舗数ではない。本社・工場・営業所・倉庫も1事業所として数えられている
経済センサスは2種類ある
総務省統計局は、経済センサスの構成をこう説明しています。
「経済センサスは、事業所・企業の基本的構造を明らかにする『経済センサス‐基礎調査』と事業所・企業の経済活動の状況を明らかにする『経済センサス‐活動調査』の二つから成り立っています。」
名前が似ていますが、実施の主体も周期も違います。競合の軒数を数えるという目的では、この2つの使い分けがそのまま結論に効きます。
| 項目 | 基礎調査 | 活動調査 |
|---|---|---|
| 主体 | 総務省 | 総務省・経済産業省 |
| 把握するもの | 事業所の名称・所在地・事業の内容など基本的な事項 | 売上(収入)金額や費用、設備投資など経済活動 |
| 直近の調査 | 2024年(令和6年)6月1日 | 2021年(令和3年)6月1日 |
| 結果の公表 | 速報 2025年5月30日/確報 2025年12月24日 | 2022年5月〜2024年6月に順次 |
| 軒数を数える用途 | こちらが最新 | 粒度は細かいが3年古い |
次回の令和8年経済センサス‐活動調査は2026年6月1日を基準日として実施され、結果は速報が2027年5月末、確報が2027年9月頃から順次公表される予定です。つまり2026年から2027年前半にかけては、「軒数は2024年の基礎調査、売上は2021年の活動調査」という組み合わせで使うことになります。
最新の数字はいつのものか
令和6年基礎調査の確報は、全国の数字をこう書いています。
「2024年6月1日現在の民営事業所数の総数(以下「事業所総数」という。)は506万494事業所となっている。このうち事業内容等不詳の事業所を除いた民営事業所数(以下「事業所数」という。)は402万3941事業所、従業者数は5628万5043人となっている。」
ここで最初のつまずきどころが出てきます。「事業所総数」と「事業所数」は別の数字で、約104万の差があります。差の中身は「事業内容等不詳の事業所」——事業所として存在はしているものの、記入内容の不備などで業種が分からなかったものです。産業別の内訳はすべて402万3941のほうを分母にしていますので、業種の軒数を扱うときは402万側を使ってください。
参考までに、産業大分類の上位はこうなっています(2024年6月1日現在)。
| 産業大分類 | 事業所数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 卸売業、小売業 | 964,106 | 24.0% |
| 医療、福祉 | 433,229 | 10.8% |
| 建設業 | 400,342 | 9.9% |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 371,131 | 9.2% |
| 製造業 | 316,194 | 7.9% |
事業所と企業は何が違うのか
同じ調査から「事業所数 402万3941」と「企業等数 254万9827」という2つの数字が出ます。どちらも2024年6月1日現在です。用語の解説はこう定義しています。
「事業所とは、経済活動が行われている場所ごとの単位で、原則として次の要件を備えているものをいう。/一定の場所(1区画)を占めて、単一の経営主体のもとで経済活動が行われていること。/従業者と設備を有して、物の生産や販売、サービスの提供が継続的に行われていること。」
つまり事業所は「場所」の単位、企業は「経営体」の単位です。1つの企業が複数の店舗を持てば、企業は1でも事業所は複数になります。商圏に何軒あるかを知りたいときに見るのは、当然ながら事業所数のほうです。
ただしここに落とし穴があります。用語の解説は支所についてこう書いています。
「支社、支店のほか、営業所、出張所、工場、従業者のいる倉庫、管理人のいる寮なども含まれる。」
事業所数は店舗数ではありません。本社機能だけの事務所も、工場も、人のいる倉庫も1事業所として数えられています。逆に小売業には「61 無店舗小売業」という中分類があり、店舗を持たない事業者も事業所数に入ります。産業分類を細かく絞るほど実際の店舗数に近づきますが、完全には一致しません。
業種で絞る(産業分類)
業種の区分には日本標準産業分類を使います。令和6年基礎調査は第14回改定(令和5年7月告示・令和6年4月1日施行)に基づいています。階層は大分類20・中分類99・小分類536・細分類1,473です。
飲食店と美容業を例にすると、次のようになります。
| 階層 | 飲食店の例 | 美容業の例 |
|---|---|---|
| 大分類 | M 宿泊業、飲食サービス業 | N 生活関連サービス業、娯楽業 |
| 中分類 | 76 飲食店 | 78 洗濯・理容・美容・浴場業 |
| 小分類 | 761 食堂、レストラン(専門料理店を除く)/762 専門料理店/765 酒場、ビヤホール/767 喫茶店/769 その他の飲食店 | 781 洗濯業/782 理容業/783 美容業/789 その他 |
業種の格付けは、その事業所の主な事業で決まります。用語の解説は「事業所の売上(収入)金額や主な事業の種類(原則として過去1年間の収入額又は販売額の最も多いもの)により」分類すると書いています。複数の業態を持つ店は、売上が最も大きい業態に1回だけ数えられるということです。
自分が調べたい業種の分類番号が分からないときは、e-Statの分類検索システムにキーワードを入れると分類番号と項目名を引けます。
どこまで細かい範囲で取れるか
ここが実務で一番効きます。結論から書きます。
| 粒度 | 取れるか | もとになる調査年 | 業種の細かさ |
|---|---|---|---|
| 都道府県 | 取れる | 2024年 | 小分類まで |
| 市区町村 | 取れる | 2024年 | 小分類まで |
| 町丁目 | 公表を確認できず | — | — |
| 約1kmメッシュ/約500mメッシュ | 取れる | 2021年 | 業種により中分類まで |
令和6年基礎調査の地域区分は、公表されている一覧では全国・都道府県・大都市・県庁所在市等・市区町村の5つで、町丁目やメッシュの区分はありません。町丁目単位で事業所数を集計した公表表は確認できませんでした。
市区町村より細かく見たい場合は地域メッシュ統計を使います。統計局の説明では「緯度・経度に基づき、地域を隙間なく四角形の網の目(メッシュ)の区域に分けて、それぞれの区画(約1km四方の基準地域メッシュ、約500m四方の2分の1地域メッシュ)に関する統計データを編成したもの」です。ただし2つ制約があります。
つまり「最新の数字は市区町村まで、細かい範囲は3年古くて業種も粗い」というトレードオフです。範囲の切り方そのものの考え方は円商圏と実勢商圏のズレで扱っています。
もうひとつ、商圏の性格を掴むのに使える集計があります。令和3年活動調査の「立地環境特性編」(2024年6月公表)は、小売業・飲食サービス業・生活関連サービス業を立地タイプ別に分けています。商業集積地区が541,096事業所(33.5%)、住宅地区が447,173事業所(27.7%)、オフィス街地区が234,324事業所(14.5%)で、さらに商業集積地区の内訳は駅周辺型が212,556事業所(39.3%)と最も多く、ロードサイド型は52,547事業所(9.7%)です。
商圏の競合を数える4ステップ
実際の手順です。市区町村単位で数える場合を基本にしています。
ステップ3・4で分かるとおり、この方法で出るのは実数ではなく比較用の目安です。地図上で実際の店舗を数える作業を置き換えるものではありません。むしろ「候補地を3つに絞る」段階までを公的統計で高速に済ませ、絞り込んだあとに現地と地図で確認する、という順番が現実的です。立地調査とは?公的データでの進め方もあわせてご覧ください。
数え間違える4か所
統計局が明記している注意点のうち、商圏分析で実際にぶつかるものを4つ挙げます。
| つまずき | 何が起きるか | 対処 |
|---|---|---|
| 秘匿処理「X」 | 「『X』は、集計対象となる事業所(企業等)の数が1又は2であるため……該当数値を秘匿した箇所」。小さい自治体×細かい業種ほど出やすい | 中分類まで戻して取る。ゼロと読み違えない |
| 調査時点と現況のズレ | 調査日は2024年6月1日、確報の公表は2025年12月24日。公表時点で約1年半のずれがある。売上(収入)金額はさらに別で2023年の1年間の数値 | 「◯年◯月現在」を必ず併記する。新規開業が多い立地では現地確認を足す |
| 過去との比較 | 令和6年は「雇用者のいない個人経営の事業所」が対象外。産業分類の版も令和3年は第13回改定、令和6年は第14回改定で違う | 増減を語るときは参考表を使う。分類の版が違う点も添える |
| 内訳の合計が合わない | 「産業分類符号の格付が十分に行えなかった事業所(企業等)については、上位分類に含めて集計しているため、内訳の計と上位分類の数値が一致しない場合がある」 | 小分類の合計が中分類と一致しなくても誤りではない |
あわせて、調査対象から外れている業種があることも押さえてください。個人経営の農業・林業・漁業、家事サービス業、外国公務は対象外です。これらの業種は「事業所数が少ない」のではなく「数えていない」ということになります。
よくある質問
Q. 経済センサスの事業所数は、いつ時点の最新版が使えますか。
A. 2026年8月時点では、令和6年経済センサス‐基礎調査(甲調査)の確報集計が最新です。調査日は2024年6月1日現在、確報の公表は2025年12月24日で、全国の事業所数は402万3941事業所です。次回の令和8年経済センサス‐活動調査は2026年6月1日を基準日として実施され、速報は2027年5月末、確報は2027年9月頃から順次公表される予定です。
Q. 前回より事業所が100万以上減っているのはなぜですか。
A. 実際に減ったのではなく、調査対象の範囲が違います。令和6年の基礎調査は「雇用者のいない個人経営の事業所」を調査対象としておらず、統計局も「過去の経済センサスとは調査対象範囲が異なっているため、比較には留意が必要である」と明記しています。時系列で見たい場合は、雇用者のいない個人経営を含む参考表を使ってください。
Q. 町丁目単位で事業所数を調べられますか。
A. 経済センサスの公表統計表としては確認できませんでした。公表されている地域区分は市区町村までです。それより細かく見る場合は地域メッシュ統計(約1km四方の基準地域メッシュ、約500m四方の2分の1地域メッシュ)を使うことになりますが、こちらは令和3年(2021年)活動調査がもとで、業種の粒度も中分類までに落ちる業種があります。
Q. 「事業所数」と「店舗数」は同じものですか。
A. 同じではありません。事業所には支社・支店のほか、営業所、出張所、工場、従業者のいる倉庫、管理人のいる寮なども含まれます。逆に小売業には「61 無店舗小売業」という区分があり、店舗を持たない事業者も事業所数に入ります。産業小分類まで絞ると実際の店舗数に近づきますが、完全には一致しません。
Q. 数字が「X」になっていて取れません。
A. 秘匿処理です。「『X』は、集計対象となる事業所(企業等)の数が1又は2であるため、集計結果をそのまま公表すると個々の報告者の秘密が漏れるおそれがある場合に、該当数値を秘匿した箇所である」と説明されています。ゼロという意味ではありません。小分類ではなく中分類に戻して取ると数値が出ることがあります。
Q. 事業所数と企業等数のどちらを使えばよいですか。
A. 商圏内に何軒あるかを知りたいなら事業所数です。企業等は経営体の単位で、1つの企業が複数の店舗を持っていても1と数えられます。2024年6月1日現在で、事業所数が402万3941、企業等数が254万9827です。