商圏分析を自分でやろうとすると、たいてい最初にたどり着くのが「jSTAT MAP(地図で見る統計)」です。政府統計の総合窓口 e-Stat が公開している地理情報システムで、国勢調査や経済センサスの数字を地図の上に載せて見られます。
ただ、実際に開いてみると情報量が多く、「結局どこを触れば商圏の人口が出るのか」で止まりがちです。この記事では、商圏分析という目的に絞って使い方を整理し、あわせて公式の操作説明書に書かれている実際の仕様から、できること・できないことの線引きまで示します。
商圏分析の全体の流れから確認したい方は、商圏分析のやり方 完全ガイドにデータ入手から出店判断までの5工程をまとめています。
jSTAT MAPはログインなしでも使え、円や到達圏で囲んだ範囲の人口・世帯数を集計できます。商圏の当たりをつける用途では十分です。一方で、ログインしないと作成したエリアは保存もエクスポートもできず、到達圏は徒歩60分・車30分が上限、集計値は小地域統計の面積按分による概算です。この3点を理解して使えば、無料ツールとしての費用対効果は非常に高いといえます。
- ログインしなくても円・到達圏の作成と集計はできる。ただし保存・エクスポートは不可で、無操作2時間でタイムアウトする
- 到達圏は徒歩が時速1〜20km・1〜60分、車が時速30〜80km・5〜30分の範囲で設定できる
- エリアの集計値は「小地域統計データを面積按分」した値。厳密なメッシュ集計ではない点は押さえておく
jSTAT MAPとは何か
jSTAT MAPは、e-Stat(政府統計の総合窓口)で提供されている統計地図の作成・地域分析ツールです。正式名称は「地図で見る統計(jSTAT MAP)」。都道府県・市区町村・小地域・地域メッシュ統計の結果を地図上に表示でき、防災、施設整備、市場分析といった計画立案に使われています。
e-Statのコンテンツは利用規約上、出典を記載すれば商用利用を含めて自由に利用できるとされています。つまり商圏レポートに数字を載せて社内稟議や出店提案に使うことも可能です(出典と年次の記載は必須)。
ログインなしとログインありで何が変わるか
jSTAT MAPは起動時に「ログインしないで始める」を選べます。商圏の当たりをつけるだけなら、ログインなしで完結します。違いは次のとおりです。
| 項目 | ログインなし | ログインあり(e-Statアカウント) |
|---|---|---|
| エリア作成(円・到達圏など) | できる | できる |
| 統計グラフ作成 | できる | できる |
| 作成したプロット・エリア・グラフの保存 | 保存されない | ログインIDに紐づいて保存される |
| エクスポート | できない | できる |
| リッチレポート(地域分析レポート) | — | 利用できる |
| 取り込んだデータの保存 | — | できる |
見落としやすいのがタイムアウトです。操作説明書には、何も操作しないで2時間を経過するとタイムアウトになる旨が記載されています。ログインせずに作業していた場合、そこまでの作成物は残りません。腰を据えて分析するならe-Statのアカウントを作ってログインしたほうが安全です。
商圏分析での使い方(4ステップ)
店舗の位置を地図上で決める
住所検索で対象地点まで移動します。複数店舗を扱う場合は「プロット」として登録しておくと、後の到達圏の一括作成で使えます。手元の店舗リストを座標に変換してから使いたい場合は、住所を緯度経度に一括変換する方法も参考にしてください。
エリアを作る(円・到達圏・多角形)
「統計地図作成」→「エリア作成」から、円(フリー円・半径指定円・同心円)、到達圏、多角形などを選びます。商圏分析でよく使うのは半径指定円と同心円(1km・3km・5kmのように複数の輪を一度に描く)です。徒歩来店の実態を見たいときは到達圏を使います。
統計グラフでエリア内の人口を見る
国勢調査の小地域・メッシュ統計を選ぶと、エリア内の人口や世帯数が地図に重なります。粒度の考え方は国勢調査の500mメッシュ人口を無料で入手する手順で解説しています。
レポートに出力する
「レポート作成」から出力します。ログインしていればリッチレポート(Excel)が使え、円・到達圏を指定するだけで年齢別人口や世帯構成まで含んだシートが生成されます。
到達圏で設定できる範囲(実仕様)
到達圏は「徒歩10分で行ける範囲」のように、移動時間で商圏を切る機能です。円と違って道路網に沿った形になるため、実態に近い商圏が描けます。設定できる範囲は操作説明書に上限が明記されています。
| 移動手段 | 時速 | 到達時間 |
|---|---|---|
| 徒歩 | 1〜20km | 1〜60分 |
| 車 | 30〜80km | 5〜30分 |
複数店舗をまとめて処理したい場合は「到達圏(プロットグループ指定)」で一括作成できますが、1回の操作で作成できるエリアの上限は100件です。また、クリックした地点付近に道路がないと認識された場合はエリアが表示されません。山間部や埋立地の新規区画などで起きることがあります。
円と到達圏でどれくらい数字が変わるかは、実際に測ると想像以上です。見晴のデモデータ4店舗・夜間人口で比較すると、半径4kmの円で32.1万人だった商圏人口は、徒歩10分の到達圏では1.7万人(推定値・2026年7月実測)でした。詳しくは円商圏と実勢商圏はどれだけズレるかで扱っています。
リッチレポートで出てくるもの
リッチレポート(地域分析レポート)はログインが必要ですが、商圏レポートの下敷きとしては優秀です。標準シートは次の構成になっています。
| シート | 内容 |
|---|---|
| 表紙 | エリア全域を包含した地図と出力シート一覧 |
| 基本分析 | 人口ピラミッド、人員別世帯構成比、主要な統計値 |
| 周辺地図 | 最も内側のエリアが収まる縮尺の地図 |
| かかる小地域 | エリアにかかる小地域の一覧 |
| 年齢別人口 | 年齢区分別の人口集計 |
| 世帯数 | 世帯人員別・親族世帯・住宅形態別・持ち家形態別など |
| 経済センサス | 経済センサスからピックアップした指標 |
| 人口・世帯数増減 | 令和2年と平成27年の500mメッシュ統計による増減 |
| マップキャプチャ | 表示範囲の地図画像 |
特に「人口・世帯数増減」は、そのエリアが伸びているのか縮んでいるのかを1枚で示せるため、出店提案の説得力が上がります。国勢調査2回分の差分なので、一時的な変動ではなく構造的な増減が読めます。
数字の読み方で注意すべき点
使ううえで必ず押さえておきたいのが、集計の作り方です。操作説明書には、エリアの集計値は小地域統計データを面積按分して算出したものと明記されています。
面積按分とは、円が小地域(町丁字など)の一部だけにかかっている場合、その小地域の人口を面積の比率で割り当てる方法です。実際には人は均等に住んでいないので、誤差が出る前提で読む必要があります。田畑や山林を含む小地域では過大に、駅前の集合住宅に人口が集中している小地域では過小に出やすくなります。
厳密さが必要な場面では、より細かい500mメッシュ統計で集計し直す、複数の方法で出した数字を突き合わせる、といった対応が要ります。いずれにせよ商圏人口は「推定値」であって実測値ではないという前提は、どのツールを使っても変わりません。算出方法そのものの違いは商圏人口の調べ方で整理しています。
できないこと・苦手なこと
無料で使える範囲としては非常に優秀ですが、実務で使うと以下は別の手段が必要になります。
- 広く取りたい到達圏が作れない:車の到達圏は30分が上限です。ロードサイド型で車30分超の商圏を想定する業態では、円で代用するしかありません。
- 多店舗の重なりを人口ベースで比べるのに手数がかかる:エリアごとの集計はできますが、「A店とB店の商圏が重なる部分に何人いるか」を並べて比較する用途では操作数が増えます。
- 広告の配信設定にそのまま持っていけない:Meta広告やGoogle広告のピン+半径と概念は同じでも、設定を書き出して連携する機能はありません。数字を見て人が判断し、管理画面で設定し直すことになります(Meta広告の半径は何kmが正解か)。
- 駅の乗降客数など他省庁のデータは入っていない:昼の人流を補完したい場合は国土数値情報など別のデータが必要です(駅の乗降客数を無料で調べる方法)。
- 自社の顧客データを扱う場合は取り扱いの確認を:データの取り込み機能はありますが、顧客住所のような個人情報を含むデータをどこで処理するかは、社内規程と照らして判断してください。
逆に言えば、「無料で、出典が明確な公的統計を、地図の上で確認する」という目的にはこれ以上ないツールです。まずjSTAT MAPで当たりをつけ、日常的に何度も見る・多店舗で比較する段階になったら専用ツールに移す、という順番が現実的です。
よくある質問
jSTAT MAPは無料ですか?
e-Statで公開されている公的サービスで、利用にあたって費用はかかりません。ログインなしでも基本的な機能は使えます。保存やリッチレポートを使う場合はe-Statのアカウント(無料)が必要です。
ログインしないとどこまでできますか?
エリア作成や統計グラフ作成はできます。ただし作成したプロット・エリア・グラフは保存されず、エクスポートもできません。無操作2時間でタイムアウトする点にも注意してください。
メッシュと小地域はどちらで見るべきですか?
目的によります。町丁字単位の実態を見たいときは小地域、円や到達圏のように行政界と関係のない形で切りたいときはメッシュのほうが向いています。ただしリッチレポートのエリア集計値は小地域の面積按分である点は共通の前提です。
商圏分析ツールを買う必要はありますか?
年に数回の出店検討ならjSTAT MAPで足ります。多店舗の商圏を日常的に比較する、広告の配信エリアと連動させる、顧客データを重ねる、といった継続的な運用が始まると、操作数の多さがコストになってきます。