「顧客リストを地図に落とせば、どこから来店しているか一目で分かる」。商圏分析の中でも効果が大きい打ち手ですが、そのためには住所を緯度経度(座標)に変換するジオコーディングが必要です。

ここで多くの現場がやってしまうのが、顧客の住所リストを無料のジオコーディングAPIやWebツールに流し込むこと。顧客の住所は個人情報です。外部サービスに送信した時点で「第三者への提供・委託」の論点が発生し、サービスの利用規約によっては送信したデータの扱いも不透明です。この記事では、外部に一切送信せず、手元のPCだけで住所を座標に変換する方法を解説します。

結論

国土交通省の「位置参照情報ダウンロードサービス」から大字・町丁目レベルの座標表を無料入手し、手元のExcelやスクリプトで住所の前方一致マッチングをすれば、顧客住所を1件も外部に送らずに座標化できます。精度は丁目の代表点(誤差数十〜数百m)ですが、km単位で見る商圏分析には十分です。

この記事の要点
  • 無料ジオコーディングAPIに顧客住所を送るのは個人情報保護の観点で避ける
  • 国交省「位置参照情報」は全国の町丁目・街区の座標表を無料配布している
  • 商圏分析なら丁目レベルの精度で十分。番地まで正確に打つ必要はない

なぜ外部ジオコーダに送ってはいけないのか

理由は3つあります。

  • 個人情報保護の論点:顧客住所は個人情報(またはそれに準ずる情報)です。外部サービスへの送信は、プライバシーポリシーで示した利用目的・提供先の範囲と整合している必要があります。「便利な無料ツールに貼り付けた」は説明がつきません。
  • 利用規約の論点:無料の地図・ジオコーディングサービスには、取得データの利用目的や保存に関する規約があり、商用の一括変換を想定していないものもあります。
  • 統制の論点:一度外部に出たデータは、削除の確認も流出時の追跡もできません。「送らない」が最も確実な安全策です。

幸い、日本には「送らない」を実現できる公的データが揃っています。

位置参照情報とは(街区レベルと大字・町丁目レベル)

国土交通省の「位置参照情報ダウンロードサービス」は、全国の住所単位の代表点座標をCSVで無料配布しているサービスです。2つのレベルがあります。

レベル単位精度の目安商圏分析での使いどころ
大字・町丁目レベル「◯◯市△△町1丁目」まで丁目の代表点(数十〜数百m)顧客分布・商圏カバー率はこれで十分
街区レベル「1丁目2番」の街区まで街区の代表点(数十m)より細かい可視化をしたい場合

毎年更新されており、見晴では2025年版の大字・町丁目レベル(1都3県で21,473丁目)を使っています。ファイルは都道府県単位でダウンロードでき、住所文字列と緯度経度が1行ずつ並んだシンプルなCSVです。

ローカル変換の手順

1

対象都道府県の位置参照情報をダウンロード

位置参照情報ダウンロードサービスから、顧客が分布する都道府県の「大字・町丁目レベル」CSVを取得します。ここでダウンロードするのは公的な座標表であり、顧客情報は一切関係しません。

2

顧客住所を正規化する

表記ゆれを揃えます。全角半角の統一、「一丁目」→「1丁目」などの数字表記統一、都道府県名の補完が主な処理です。ここの精度がマッチ率を決めます。

3

前方一致でマッチングする

顧客住所の先頭から、位置参照情報の「都道府県+市区町村+大字・丁目」文字列と最も長く一致する行を探し、その座標を割り当てます(最長前方一致)。Excelなら作業列+VLOOKUP系、pandasなら数行のスクリプトで書けます。番地以下は無視してかまいません。

4

マッチしなかった住所を確認する

建物名から始まる行や旧町名などはマッチしません。マッチ率(通常9割以上は狙えます)を確認し、残りは手で市区町村レベルに落とすか、分析から除外します。

この方法の本質は、「顧客データを座標表に照合する」のであって「顧客データをどこかに送る」のではないという点です。処理はすべて手元で完結します。

精度の考え方:商圏分析に必要な解像度

丁目代表点の誤差は数十〜数百mです。「ピンが自宅の玄関に立たない」ことを気にする必要はありません。商圏分析で答えたい問いは次のようなものだからです。

  • 顧客の何%が店の半径3km(あるいは徒歩10分圏)に住んでいるか
  • 2店舗の商圏が重なるエリアにどれだけの顧客がいるか
  • 顧客が集中しているのにチラシも広告も届けていない空白地帯はどこか

いずれもkm単位の問いであり、丁目レベルの座標で十分に答えられます。むしろ番地レベルの精度を求めて顧客住所を外部APIに送るほうが、得られる精度に対してリスクが大きすぎます。

参考までに、見晴の顧客分析機能もこの方式です。ブラウザに読み込んだ顧客CSVを端末内で位置参照情報と照合し、外部への送信はゼロ(ネットワーク通信の実測で確認済み)。顧客データはクラウドにも保存されず、タブを閉じれば消えます。

出典:国土交通省「位置参照情報ダウンロードサービス」(見晴の内蔵データは2025年版・大字/町丁目レベル)。個人情報の取り扱いは個人情報保護法および各社のプライバシーポリシーに従ってください。本記事は法的助言ではありません。2026年7月時点の情報です。

よくある質問

Excelだけでできますか?

できます。位置参照情報のCSVと顧客リストを同じブックに置き、正規化した住所の前方一致で座標を引く方法が定番です。件数が数万件を超える場合はpandasなどスクリプトのほうが速く安定します。

郵便番号から変換してもいいですか?

郵便番号は集配の単位であり、地理的な範囲が広すぎたり飛び地になったりすることがあります。商圏分析には住所(丁目)ベースの変換をおすすめします。

店舗の住所(自社の拠点)も同じ方法が必要ですか?

店舗住所は個人情報ではないため、外部ジオコーディングを使っても問題は小さいです。守るべきは顧客の住所です。