Meta広告(Facebook・Instagram広告)で店舗の集客をするとき、地図にピンを立てて半径を指定する「半径ターゲティング」を使います。設定方法の解説記事は山ほどあります。ピンを立てて、スライダーを動かすだけ。誰でもできます。
問題はその次です。「で、何kmにすればいいのか」。この問いに答えている記事はほとんどありません。多くの現場では「とりあえず5km」「前任者が10kmにしていたから10km」で運用されており、それが広告費のムダ打ちの温床になっています。この記事では、広告運用と商圏ツール開発の両方をやっている立場から、配信半径をデータで決める手順を解説します。
正解の半径は業種や立地で変わるため「一律◯km」は存在しません。決め方の手順が正解です:①来店実績の分布で商圏の実態を測る → ②半径内の人口ボリュームを確認する → ③他店舗との重複を避ける → ④配信結果で検証する。判断材料はすべて無料の公的データで揃います。
- Meta広告のピン+半径は1〜80kmで指定可(2026年7月時点)。設定はできても「適正半径」は教えてくれない
- 円の半径を1段階広げると対象人口は想像以上に増える。半径4kmと徒歩10分圏では人口が約19倍違う実測例も
- 多店舗の場合は「円の重なり」がムダ打ちの正体。円を描いて可視化すれば潰せる
仕様の整理:設定できる範囲
| 媒体 | 半径指定の範囲 | 補足 |
|---|---|---|
| Meta広告 | ピン+半径 1〜80km | 市区町村・郵便番号指定も可(その場合の半径の扱いは異なる) |
| Google広告 | 半径 1km〜500km | 面積・ユーザー数が小さすぎるエリアは指定不可/配信されないことがある |
※ いずれも2026年7月時点。仕様は変わるため、実際の設定時は各広告管理画面で確認してください。ポイントは、Metaは半径1kmでも設定でき、狭いエリア配信に比較的強いことです(Googleは狭すぎると配信されない実例が報告されています)。つまりMetaでは「狭くできるのに、なんとなく広くしている」ケースが多いのです。
勘で決めた半径が引き起こす2つの損
広すぎる場合の損
来店可能性の低い遠方ユーザーにも配信され、予算が薄く広く消えます。クリックは付くのに来店・予約につながらない、CPA(獲得単価)だけが悪化する、という典型パターンです。
狭すぎる場合の損
オーディエンスが小さすぎて配信が安定せず、機械学習の最適化も進みません。「配信ボリュームが出ない→入札が上がる→単価が高騰する」の悪循環に入ります。
どちらの損も、原因は同じです。半径を「商圏の実態」ではなく感覚で決めていること。逆に言えば、商圏の実態を数字で押さえれば両方避けられます。
商圏データから半径を決める4ステップ
来店実績の分布で「実際の商圏」を測る
顧客リストや会員データがあるなら、住所を地図に落として「顧客の8割が住んでいる範囲」を確認します(顧客住所は外部に送らずローカルで座標化できます)。実績こそ最強の商圏データです。新店で実績がない場合は、業態の来店手段(徒歩か車か)から仮説を立てます。
候補半径の人口ボリュームを確認する
半径3km・5km・10kmそれぞれに何人住んでいるかを国勢調査の500mメッシュ人口で確認します。Metaの推定オーディエンスサイズとあわせて見ると、「配信が安定する最小の半径」が見えてきます。駅前立地なら駅の乗降客数で昼の人流も補完します。
他店舗・他施策との重複を避ける
多店舗なら各店の円を1つの地図に描き、重なりを確認します。重なったエリアの住民には同じ会社の広告が二重に配信され、フリークエンシー過多と予算の食い合いが起きます。円がぎりぎり接する半径まで絞るのが基本です。また、広告を出さなくても自然に集客できている店に広告を被せるのは、無料で来る客に広告費を払う二重の損です。
配信結果で検証し、半径を調整する
配信後は「エリア別の成果」ではなく、来店・予約・応募など事業の実数で検証します。管理画面のクリックやリーチではなく、実際に来た人がどこから来たかを見て、半径を1〜2km単位で調整していきます。
実測:円の商圏はどれくらい「盛れて」いるか
半径の円は簡単に描けますが、円の中の全員が来店可能な人ではありません。編集部で、同一店舗を「半径の円」と「移動時間の到達圏」の両方で集計した実測値があります(見晴のデモデータ4店舗・夜間人口・2026年7月実測)。
| 商圏の取り方 | 圏内人口(推定) | 半径4km比 |
|---|---|---|
| 半径4kmの円 | 32.1万人 | — |
| 徒歩10分の到達圏 | 1.7万人 | 約1/19 |
| 車15分の到達圏 | 37.6万人 | 約1.2倍 |
徒歩来店が中心の業態で「半径4km」に配信すると、実際に歩いて来られる人の約19倍の母集団に広告費を撒いていることになります。逆に車来店の業態では、川や線路で分断された方向を除けば、円よりも到達圏のほうが広いことすらあります。円はあくまで近似です。徒歩業態は狭く、車業態は道路事情込みで、が原則です。
多店舗展開なら「円の重なり」を先に潰す
店舗が増えるほど、半径の設計は「1店の最適化」から「全店の配置問題」に変わります。よくある症状はこうです。
- 隣接する2店が同じ半径で配信していて、中間エリアに二重配信されている
- 好調店の広告が不調店の商圏まで届いていて、不調店のテコ入れ効果が測れない
- 本部がエリア配分のルールを持っておらず、店舗ごとの言い値で予算が決まっている
対処はシンプルで、全店の円を1枚の地図に描いて重なりを見ることです。重複が見えれば、半径を絞る・重複エリアをどちらかの店に寄せる・除外設定を使う、と打ち手は自然に決まります。配信設定の「ピン+半径」と地図上の円は同じ構造なので、地図で決めた半径はそのまま設定に写せます。
よくある質問
結局、最初の1本目は何kmで出せばいいですか?
実績データがないなら、徒歩来店業態は1〜3km、車来店業態は5〜10kmを仮説スタートにし、ステップ2の人口ボリュームで配信が安定するかを確認してから開始するのが現実的です。重要なのは最初の値より、来店実数で検証して調整するサイクルを持つことです。
半径1kmに絞ったら配信量が出ません。
オーディエンスが小さすぎる可能性があります。人口密度の低いエリアで1kmに絞ると学習が進みません。メッシュ人口で圏内人口を確認し、配信が安定する規模まで半径を広げるか、年齢等の他の絞り込みを緩めてください。
市区町村指定と半径指定はどちらがいいですか?
店舗集客なら半径(ピン)指定が基本です。市区町村は行政境界であって生活圏ではないため、店の近くなのに隣の市だから配信されない、といった取りこぼしが起きます。チラシの配布エリアなど行政区画で動く施策と揃えたい場合のみ市区町村指定を検討します。