既存店の配信半径は、来店実績から逆算できます。しかし新店にはその実績がありません。だから新店の配信エリアは「本部の勘」「既存店のコピー」で決められがちで、これが開業直後の広告費が最も溶けやすい理由です。

実績がなくても、判断材料はそろえられます。人口・駅・競合はすべて公的データと地図で開業前に分かるからです。この記事では、実績ゼロの新店の配信エリアを設計する4ステップと、開業期→定常期の半径の切り替え方を、実例(固有名詞はマスクしています)つきで解説します。

結論

新店のエリア設計は①業態の来店手段から仮半径を置く → ②距離帯別の人口で配信の成立性を確認する → ③既存店・競合との重複を避ける → ④開業期は広め、定常期は絞るの4ステップ。開業実績が8〜12週たまったら、仮説の半径を実績で上書きします。

この記事の要点
  • 仮半径の起点は「徒歩来店業態なら1〜3km、車来店業態なら5〜10km」。そこから人口で補正する
  • 半径は総人口ではなく距離帯別(0-1km/1-3km/3-5km)で見る。近距離に人口の核があるかで戦い方が変わる
  • 開業告知(認知)と定常集客(獲得)は目的が違う。同じ半径でやらない

ステップ1:業態の来店手段から仮半径を置く

最初の仮説は業態で決まります。顧客がどうやって店に来るかが、商圏の物理的な上限を決めるからです。

来店手段仮半径の起点補足
徒歩・自転車が中心1〜3km駅前・住宅街の日常利用業態。実際の徒歩10分圏は円よりずっと狭い点に注意(後述)
電車+徒歩沿線・駅基準で設計半径より駅の乗降客数と路線のつながりが効く
車が中心5〜10km幹線道路・川・線路の分断で円と実態がズレやすい。到達圏での確認が有効

これはあくまで起点です。同じ「徒歩業態」でも、都心の駅前と郊外の住宅街では圏内人口が桁で違います。次のステップで人口によって補正します。

ステップ2:距離帯別の人口で成立性を確認する

仮半径を置いたら、その圏内に何人住んでいるかを確認します。出典は国勢調査の500mメッシュ人口(令和2年/2020年・確定値)が定番です。ここで大事なのは、総数だけでなく距離帯別の内訳を見ることです。

店舗の商圏人口を0-1km・1-3km・3-4kmの距離帯別に分解した見晴の画面例(デモデータ・推定値)
同じ「圏内32.9万人」でも、0-1kmに2.4万人いる店と数千人しかいない店では戦い方が違う。距離帯別の内訳が新店の初期戦略を決める(見晴のデモデータ・推定値)。

距離帯の読み方の目安はこうです。

  • 0-1kmに人口の核がある → 開業直後から最寄り層の反復来店を狙える。狭い半径+高頻度でよい
  • 1-3kmに人口が偏っている → 「知ってもらえば来られる」層が主戦場。開業告知の重要度が上がる
  • 3km以遠が主体 → 来店ハードルが高く、広告だけでは埋まりにくい。商品・立地側の検討に戻るサイン

また、配信の観点では圏内人口がそのままオーディエンスの上限になります。人口が少なすぎると機械学習が安定せず単価が高騰するため、配信が安定する規模まで半径を広げる補正もここで行います(半径と人口ボリュームの関係はこちら)。

ステップ3:既存店・競合との重複を避ける

多店舗展開の新店なら、円を描く相手は自店だけではありません。

  • 既存店との重複:新店の円が既存店の商圏に食い込むと、開業直後から社内で客とフリークエンシーの食い合いが始まります。円がぎりぎり接する半径で止めるのが基本です(重複の損の構造はこちら)。特に、広告なしで埋まっている既存店の商圏には絶対に食い込ませないこと。
  • 競合との位置関係:競合店の位置と商圏を同じ地図に描くと、「競合の商圏の裏側から取る」「あえて正面から取る」の選択が構造として見えます。

ステップ4:開業期は広め、定常期は絞る

新店の広告には、時期によって目的が2つあります。混ぜると評価を誤ります。

開業期(〜6週間目安):認知

「ここに店ができた」を商圏に知らせるフェーズ。定常より1段広い半径で、リーチ重視の設計にします。この時期のCPAは高くて当然で、獲得単価で評価しません。

定常期:獲得

開業の告知が行き渡ったら、ステップ1〜3で設計した定常半径に絞り、来店・予約の実数で評価するフェーズに切り替えます。切り替え忘れが最も多い事故です。

実例(固有名詞はマスクしています)

首都圏で教室型サービスを多店舗展開するA社の新店では、開業前に距離帯別人口と既存店の円を確認したうえで、開業期だけ定常想定より広い半径で告知配信を行いました。開業から一定期間後、定常半径(既存店の円と接する手前)へ縮小。その後は管理画面のCVではなく応募実数ベースのCPAで監視する運用に載せています。開業期の広めの配信を定常期まで続けなかったことで、隣接店との予算の食い合いを開業直後から避けられました。

※ 期間・金額は業態により大きく異なるため記載していません。「開業期と定常期で半径と評価基準を分ける」構造が要点です。

候補地の段階から広告まで、同じ物差しで

ここまでの4ステップで使った材料(距離帯別人口・駅・競合・既存店との重複)は、実は出店判断そのものに使う材料と同じです。つまり出店の検討段階でこの物差しを作っておけば、開業時の広告設計は「できあがった物差しに半径を書き込むだけ」になります。

LTV・獲得率・出店コストから候補地ごとの回収期間を比較した見晴の出店評価画面例(デモデータ・概算)
候補地を「有効商圏人口→想定顧客数→回収期間」で横並び比較した例。出店判断と広告のエリア設計は同じデータで裏付けられる(見晴のデモデータ・概算値)。
出典・前提:人口は総務省統計局「国勢調査」(令和2年/2020年・確定値)500mメッシュによる推定、駅乗降客数は国土数値情報S12(令和6年版・最新年次は令和5年度)。掲載画面は見晴のデモデータ(架空のカフェチェーン)です。実例は運用経験を特定を避ける形で再構成しています(実数値は非公開)。

よくある質問

開業期の「広め」はどれくらい広げればいいですか?

定常想定の1.5〜2倍の半径が実務的な目安ですが、上限は「隣接する既存店の商圏に食い込まない範囲」です。既存店がない単独出店なら、距離帯別人口で3km圏の外にも人口の塊がある場合に限り広げる、と考えると過剰配信を防げます。

チラシ・ポスティングとの整合はどう取りますか?

デジタルの円とチラシの配布エリア(町丁目単位)は形が合いませんが、判断材料は同じ「距離帯別の人口」です。0-1kmはポスティング、1-3kmはデジタル、のように距離帯で役割分担すると、二重投下と空白の両方を避けられます。

実績が貯まったら何を見て半径を直しますか?

来店・予約時に取得した顧客の居住エリア(住所・郵便番号・最寄り駅など)を地図に落とし、「実際に来た人の8割が入る範囲」と配信円を見比べます。顧客住所は外部に送らず端末内で座標化する方法があるので、個人情報を配信プラットフォームに渡す必要はありません。