商圏の「人数」は国勢調査で分かります。では「その人たちがどれくらいお金を使えるのか」はどう測ればいいでしょうか。客単価の高い業態(自由診療、パーソナルジム、高価格帯の教室など)ほど、人口だけでなくエリアの購買力が出店の成否を分けます。
購買力の代理指標として実務で使いやすいのが、住民税の課税データから計算できる「納税者1人あたりの平均所得」です。この記事では、公的資料からこの数字を無料で作る手順と、使うときの注意点を解説します。
市区町村ごとの課税対象の総所得金額を納税義務者数で割ると、納税者1人あたり平均所得が出ます。元データは総務省「市町村税課税状況等の調」または各都道府県の「市町村税の概要」で無料公開されています。例えば埼玉県の令和5年度資料からは、さいたま市399万円・所沢市355万円・春日部市317万円といった差が計算できます。
- 「総所得金額 ÷ 納税義務者数」で市区町村別の平均所得が計算できる
- 元データは総務省または都道府県が毎年無料公開している課税状況資料
- これは「納税者の平均」であり住民全員の平均ではない。定義を必ず併記する
どの公的データを使うか
個人の所得を市区町村単位で集計した公的データは、住民税(個人市町村民税)の課税実務から作られます。入手ルートは2つあります。
| ルート | 発行元 | 特徴 |
|---|---|---|
| 市町村税課税状況等の調 | 総務省 | 全国の市区町村を一括で比較できる。e-Stat/総務省サイトで公開 |
| 市町村税の概要(名称は県により異なる) | 各都道府県 | 県内市町村の詳細表。Excel形式で扱いやすいことが多い |
1つの県内で出店候補を比較するなら都道府県資料が手早く、複数県をまたぐなら総務省資料で揃えるのがおすすめです。
計算手順(埼玉県の実例つき)
課税状況資料の「所得割」の表を開く
資料の中から、市区町村ごとの総所得金額(課税対象)と納税義務者数(所得割)が載っている表を探します。埼玉県の「市町村税の概要(令和5年度版)」では第11表がこれに当たります。
総所得金額 ÷ 納税義務者数 を計算する
Excelで1列足すだけです。単位(千円・百万円)に注意して、1人あたり万円に揃えます。
候補エリアを横並びで比較する
編集部が埼玉県の令和5年度資料で実際に計算した値の例:さいたま市 約399万円/越谷市 約356万円/所沢市 約355万円/草加市 約343万円/春日部市 約317万円(納税者1人あたり総所得・県資料第11表から算出)。同じ「埼玉のベッドタウン」でも80万円以上の開きがあることが分かります。
使うときの注意点3つ
注意1:これは「納税者の平均」である
分母は住民全員ではなく、住民税の所得割を納めている人です。専業主婦(主夫)・学生・非課税の年金生活者などは含まれません。資料に書くときは「納税者1人あたり平均所得(市町村税課税状況より算出)」のように定義まで書いてください。
注意2:平均は高所得者に引っ張られる
所得分布は右に裾が長いため、少数の高所得者が平均を押し上げます。タワーマンション1棟で数字が動く規模の自治体もあります。「平均が高い=みんな裕福」ではありません。
注意3:市区町村内の差は見えない
同じ市でも駅前と郊外、旧市街と新興住宅地では所得層が違いますが、この統計は市区町村単位です。より細かく見たいときは、家賃相場や持ち家率(国勢調査)を補助線にします。
商圏分析での使い方
- 出店候補の絞り込み:人口規模が同程度の候補地が並んだとき、価格帯と客層が合うエリアを選ぶ判断材料になります
- 価格設定の妥当性チェック:既存店の客単価とエリア所得の関係を見れば、新店の価格戦略を立てる根拠になります
- 商圏の加重平均:商圏円が複数の市区町村にまたがる場合は、人口で加重平均した「商圏平均所得」にすると1つの数字で比較できます(見晴の店舗カードに表示される商圏平均所得はこの方式の推定値です)
よくある質問
「平均年収」とは違うのですか?
違います。ここで計算するのは課税対象の「所得」(収入から給与所得控除等を引いた後)であり、いわゆる年収(額面収入)より小さい数字になります。エリア間の比較には問題ありませんが、年収データと混ぜて比較しないでください。
中央値は分かりますか?
課税状況の公表資料からは平均しか計算できません。分布の偏りが気になる場合は、課税標準額の段階別納税義務者数(資料に含まれることが多い)で高所得層の比率を補助的に見る方法があります。
毎年更新されますか?
はい。課税状況は毎年度公表されます。資料を引用するときは必ず年度を明記してください。