国勢調査で商圏人口は出せます。ただしそれは「そこに住んでいる人の数」です。実際に店の前を通るのは、住んでいる人だけではありません。だから人流データを見たくなります。
ところが「人流データ 無料」で調べると、たいてい民間サービスの資料請求ページに行き着きます。公的なものはあります。国土交通省が全国の人流オープンデータを公開しています。ただし、実際にデータセットのページを開くと、そこには次の一文があります。
「本データセットは、コロナウィルス対策調査の一環で公開されたものです。2022年以降の公開予定はございませんので、ご了承ください。」
集計期間は2019年1月から2021年12月までです。いまの人の動きを見る用途には使えません。この記事では、それでも何に使えるのか、なぜ1kmメッシュなのか、性別・年齢が要るときの代替は何かを、原典にあたって整理します。商圏分析の全体像は商圏分析のやり方 完全ガイドにまとめています。
無料で使える公的な人流データは、国土交通省「全国の人流オープンデータ」(1kmメッシュ/市区町村単位発地別、月別)です。ただし集計期間は2019年1月から2021年12月までで、2022年以降の公開予定は無いと明記されています。中身はスマートフォンアプリのGPSを日本の総人口規模へ拡大推計した「換算人口値」で、実測のカウントではありません。10人未満のメッシュは出力されません。性別・年齢別が要るなら、画面上で見るかぎりRESASのマーケティングマップが無料で使えます。店舗の商圏(半径500mから1km)に対して1kmメッシュはかなり粗く、現況把握の主軸には向きません。
- 国土交通省の人流オープンデータは2021年12月分で終了。使えるのは過去との構造比較と、手法の練習まで
- 数字は実測のカウントではなく推計値。アプリ利用者を拡大推計し、滞在時間で按分した「換算人口値」で、1か月における1日あたりの平均
- 空間単位は1kmメッシュと市区町村の2つだけ。500mメッシュは提供されていない。10人未満のメッシュは非出力のため、郊外や地方は穴が空く
- 提供される区分は平日/休日/全日と、昼/深夜/終日。性別・年齢階級・滞在時間の区分は含まれない
人流データの公的な定義
国土交通省は「地域課題解決のための人流データ利活用の手引き」(Ver1.2版・令和6年3月)で、人流データを次のように定義しています。
「人の集積・通過や移動の履歴を計測した値および計測した値をもとに推計・加工した人の動きに関するデータ。」
「計測データ:カメラやセンサー等で取得・計測した値や画像データ。一般的に「人流データ」と称されているものは、「計測データ」を加工・推計等されたデータを指します。」
最後の一文が重要です。世の中で人流データと呼ばれているものは、そのままの計測値ではなく加工・推計されたものだと、国が自分で書いています。この前提を外すと、後で出てくる数字の扱いを間違えます。
同じ手引きは、人流データを4つに分けています。
| 分類 | 手引きの説明(原文) | 商圏分析での使いどころ |
|---|---|---|
| カウントデータ | 「ある地点を通過する人数を把握した、いわゆる通行量データ。」 | 店前通行量。出店判断の直接材料になる |
| 滞留データ | 「ある地点や特定空間内に一定時間留まっている人数を把握したデータで、密度や混雑等を示します。」 | 商圏内にどれだけ人が留まっているか |
| ODデータ | 「ある出発地点(発地=origin)からある目的地(着地=destination)まで移動した人数を把握したデータ。…地点間の移動経路は特定しません。」 | どこから来ているか。商圏の広がりの検証 |
| 移動軌跡データ | 「一人一人の移動軌跡データであり、このデータから(1)~(3)を作成できます。」 | 民間の有償データが中心 |
なお「流動人口」という語もよく見かけますが、この手引きの用語集には項目が無く、公的な定義文は確認できませんでした。使うときは滞留データ・ODデータのどちらを指しているのかを明示したほうが安全です。
無料で手に入るのはどれか
公的機関が誰でも落とせる形で出している人流データの本命が、国土交通省「全国の人流オープンデータ(1kmメッシュ、市区町村単位発地別)」です。G空間情報センターで公開されています。
| 項目 | 内容(データセットページの原文) |
|---|---|
| 提供エリア | 全国 |
| 集計期間 | 2019年1月~2021年12月の各月 |
| 集計単位(平休日) | 全日/平日/休日(土曜・日曜・祝日) |
| 集計単位(時間帯) | 終日/昼/夜 |
| 集計単位(居住地) | 同市区町村/同都道府県/同地方/それ以外 ※市区町村単位発地別データのみ |
| データ形式 | CSV形式 |
時間帯の実体は定義書PDFに書かれています。昼は11時台から14時台の平均、深夜は1時台から4時台の平均、終日は0時台から23時台の平均です。データセットページでは「夜」と表記され、定義書では「深夜」となっていますが、指しているのは同じ1時台から4時台です。
ダウンロードにはG空間情報センターのユーザ登録とログインが必要です(原文「データのダウンロードは、ユーザ登録の後、ログイン状態で行ってください。」)。登録自体は無料です。
利用条件はライセンス欄が「政府標準利用規約」となっており、同梱の利用規約PDFに次の記載があります。
「どなたでも以下の1)~6)に従って、複製、公衆送信、翻訳・変形等の翻案等、自由に利用できます。商用利用も可能です。」
「コンテンツを利用する際は出典を記載してください。(出典記載例)出典:「全国の人流オープンデータ」(国土交通省)」
「コンテンツを編集・加工等して利用する場合は、上記出典とは別に、編集・加工等を行ったことを記載してください。」
商用利用は可能です。ただし出典表示は必須で、加工した場合はその旨も別に書く必要があります。同規約はクリエイティブ・コモンズの表示4.0国際と互換性があると本文に書かれていますが、ライセンス欄の表記そのものは政府標準利用規約です。提案書などに書き写すときは、この違いに注意してください。
2021年12月で止まっている
ここが実務上いちばん効きます。冒頭に引いたとおり、データセットページには2022年以降の公開予定が無いと明記されています。2026年8月現在、最新のデータは2021年12月分です。
もうひとつ、細かいながら見落とすと混乱する点があります。定義書PDFの仕様表は「24ヶ月 開始:2019/1/1 終了:2020/12/31」のままで、2021年分が追加された後の改訂が入っていません。データ本体は2021年12月まであるので、定義書の期間表記のほうが古い状態です。ダウンロードしたファイルの年月が定義書と合わなくても、データ側が正です。
では何に使えるのか。実務で意味があるのは次の2つに絞られます。
2019年(コロナ前)と2020年から2021年(コロナ期)が同じ定義で入っています。オフィス街と住宅地で人の減り方がどう違ったか、平日と休日でどちらが戻ったかといった構造の違いを、同一の物差しで比べられます。いまの水準を知る用途ではなく、その地域の性格を知る用途です。
CSVを落として集計し、地図に載せるまでを無料で一通り試せます。国土交通省がQGIS用の利用マニュアルも同じデータセット内で公開しているので、有償データを契約する前に「自分たちが本当にこの粒度で意思決定できるのか」を確かめられます。
逆に、いまの店前通行量を知りたい、今年の休日の人出を見たい、という用途には使えません。その場合は次の章以降で触れる代替か、民間の有償データになります。
実測値ではなく換算人口値
数字の作られ方を知らずに使うと、桁を信じすぎます。定義書PDFにははっきり書かれています。
「本オープンデータの滞在人口はAgoop社が提供するSDK(AgoopSDK)を組み込んだスマートフォンアプリより取得されたGPSデータを基に作成されています。」
「換算人口値の算出手順は以下の通りです。
①拡大推計:アプリユーザごとに、地域に応じた拡大推計を実施
②集計加工:①で拡大推計を行ったアプリユーザの緯度経度データを、「メッシュ」または「市区町村」単位で集計
③時間按分:②で集計したデータに対し、人口値を滞在時間で按分し、換算人口値を算出」
元データは携帯電話の基地局ではなく、アプリに組み込まれたSDKが取得するGPSです。そこから3段階の加工が入ります。
③の時間按分がとくに理解しておくべきところです。定義書の例では、30人分の重みを持つアプリ利用者が1時間で3メッシュを移動した場合、10分滞在したメッシュAには5人、30分のメッシュBには15人、20分のメッシュCには10人が計上されます。1人が3か所に分割して数えられるということです。そして「換算人口値は、1ヶ月間における1日あたりの平均値となります」と定義書は書いています。
したがって、この数字は「その日そこにいた人数」ではありません。人流データ利活用事例集2025も、この種のデータについて「実際のカウント数ではないため、実績値としては使えない」と書いています。手引きVer1.2の注意書きも同じ方向です。
「これらは、携帯電話の通信サービスやスマートフォンアプリの利用とあわせて取得されることから、計測対象者は当該サービスそれぞれの利用者のみとなります。」
「また、アプリに対して位置情報の利用を許諾しているユーザーのみデータを取得することができる点に注意が必要です。」
「GNSS は屋内や地下のデータ取得はあまり期待できません。」
「道路などの狭いエリアの通行量カウントはサンプルサイズが小さく、推計が難しいケースがあります。」
最後の一文は商圏分析に直結します。エリアが狭いほど推計の精度は落ちます。市区町村や駅前一帯なら傾向として読めても、特定の交差点や1本の通りに落とすと、そもそも設計上の想定を超えています。屋内・地下が苦手という点も、駅ビルや地下街の店舗では効いてきます。
なお、15歳未満が含まれるか、外国人がどう扱われるかについては、定義書・利用規約・データセットの説明文のいずれにも記載を確認できませんでした。年齢構成を前提にした議論には使わないほうが安全です。
1kmメッシュは商圏に対して粗い
空間単位は1kmメッシュと市区町村の2つだけです。国勢調査の小地域集計で使える500mメッシュのような細かさはありません。
どのくらい粗いのか、面積で見てみます。徒歩10分の商圏を分速80mで見積もると半径約800m、面積は約2.0平方キロメートルです。1kmメッシュは1平方キロメートルなので、徒歩10分商圏はメッシュ2つぶんほどの大きさにしかなりません。
| 商圏の切り方 | おおよその面積 | 1kmメッシュ換算 |
|---|---|---|
| 徒歩10分(半径約800m) | 約2.0平方キロメートル | 約2個 |
| 半径1km | 約3.1平方キロメートル | 約3個 |
| 半径4km | 約50.3平方キロメートル | 約50個 |
しかも、メッシュの区切りは店の位置と無関係に決まっています。店がメッシュの角に立っていれば、徒歩10分の商圏は4つのメッシュに分かれます。そのうち3つは大半が商圏の外側です。この状態で足し上げても、商圏の人流とは呼びにくい数字になります。円で切るか実際の到達範囲で切るかという論点は円商圏と実勢商圏のズレに整理しましたが、メッシュの粗さはそれ以前の問題として効いてきます。
もうひとつ、非出力の規定があります。
「プライバシー保護のため、換算人口値が10人未満のメッシュは出力しておりません。」
10人未満は行そのものが出てきません。データが無いことと、人がいないことが区別できないということです。郊外や地方の商圏では、この穴が無視できない範囲になります。ゼロとして足し上げると過小に、無視して平均を取ると過大に出ます。
参考までに、見晴のデモ4店舗で実測した夜間人口は、徒歩10分で1.7万人、半径4kmで32.1万人、車15分で37.6万人でした(2026年7月23日時点の実測値)。切り方だけで約22倍の開きがあります。この差を議論できる粒度を、1kmメッシュは持っていません。商圏人口の出し方そのものは商圏人口の調べ方にまとめています。
性別・年齢が要るならRESAS
国土交通省のオープンデータには性別・年齢階級の区分がありません。あるのは平日/休日/全日、昼/深夜/終日、そして市区町村単位発地別データに限って「同市区町村/同都道府県/同地方/それ以外」という居住地の4区分だけです。
性年代別が要る場合、無料で使えるのは内閣府・経済産業省のRESAS(地域経済分析システム)です。2025年3月に新システムへ全面移行し、旧来の「まちづくりマップ > From-to分析(滞在人口)」という名称は無くなりました。現在は「マーケティングマップ」の中に後継のメニューがあります。
| メニュー | 公式の説明(原文) |
|---|---|
| 滞留人口メッシュ分析 | 「携帯電話のアプリ利用者の位置情報を基に、エリア内に留まっていた人口を表示したり、指定したエリアの滞留人口推移や性年代別構成を表示します。」 |
| 通過人口メッシュ分析 | 「携帯電話のアプリ利用者の位置情報を基に、エリア内を通り過ぎた人口を表示したり、指定したメッシュの通過人口推移や性年代別構成を表示します。」 |
RESAS自体は登録不要・無料で、公式のよくある質問にも「RESASは無料で利用できます。登録も不要で、誰でもアクセスして利用することができます。」「RESASを自社のビジネスで活用しても良いですか? → 構いません。」とあります。出典を記載すれば問題ないとされています。
ただし制約が1つあります。同じ質問集に「Q:データのダウンロードは? A:政府統計は可能ですが、民間データは不可能です。」とあります。滞留人口・通過人口は民間データが元なので、画面で見ることはできても、手元に落として自分の商圏の形に足し上げることは想定されていません。画面で傾向を掴む用途と割り切るのが現実的です。
なお、滞留人口メッシュ分析の元データを提供している事業者名は、各メニュー内の出典・注記に記載があるとされています。画面を開いて確認してください。本記事では事業者名を確認できていないため書いていません。
夜間人口との使い分け
最後に、既存の統計との関係を整理します。国勢調査の側の定義は総務省統計局が明確に書いています。
「国勢調査で「人口」というと、ふだん住んでいる場所(常住地)における人口のことをいいますが、「従業地・通学地集計」では、この常住地における人口を「夜間人口」、ふだん通勤や通学をしている先(従業地・通学地)における人口を「昼間人口」といいます。この「昼間人口」は国勢調査で把握することのできる重要な指標で、その地域でふだん活動している人の規模を表すため、防災計画や交通政策などに役立てられています。」
ここから、3つの数字の性格の違いが整理できます。
| 夜間人口 | 昼間人口 | 滞在人口(人流) | |
|---|---|---|---|
| 元になる調査 | 国勢調査(全数) | 国勢調査 従業地・通学地集計 | アプリ利用者のGPSを拡大推計 |
| 更新の頻度 | 5年に1度 | 5年に1度 | 月別(ただし2021年12月で終了) |
| 反映される移動 | なし(常住地) | 通勤・通学のみ | 買い物・観光・出張も含む |
| 数字の性格 | 実数 | 実数 | 推計値(実績値ではない) |
| 最小の空間単位 | 500mメッシュ・小地域 | 市区町村 | 1kmメッシュ |
使い分けの結論はこうなります。母数を確定させたいときは国勢調査、その地域でふだん活動している人の規模を見たいときは昼間人口、買い物や観光を含めた実勢の動きを傾向として掴みたいときが人流データです。人流データは3番目であって、1番目と2番目の代わりにはなりません。
実務では、母数を国勢調査で固め、競合と施設を経済センサスで数え、通行の傾向を道路交通センサスや人流データで補う、という順番になります。この順番を逆にして、粗い推計値の上に判断を積み上げないことが大事です。
よくある質問
Q. 人流データは無料で使えますか。
A. 国土交通省「全国の人流オープンデータ」が無料で公開されており、商用利用も可能です。ダウンロードにはG空間情報センターのユーザ登録とログインが必要ですが、登録自体は無料です。利用時は出典の記載が必須で、加工した場合はその旨も別に記載する必要があります。ただし集計期間は2019年1月から2021年12月までで、それ以降は公開されていません。
Q. 最新の人流データはどこで手に入りますか。
A. 無料の公的データでは手に入りません。国土交通省のオープンデータは「2022年以降の公開予定はございませんので、ご了承ください。」とデータセットページに明記されています。画面上で最近の傾向を見たい場合はRESASのマーケティングマップが無料で使えますが、民間データを元にしているためデータのダウンロードはできません。
Q. 500mメッシュの人流データはありますか。
A. 国土交通省のオープンデータにはありません。提供されているのは1kmメッシュと市区町村単位の2つだけです。500mメッシュで人口を見たい場合は、人流ではなく国勢調査の小地域集計を使うことになります。
Q. 人流データの数字はそのまま人数として使えますか。
A. 使えません。アプリ利用者を日本の総人口規模へ拡大推計し、滞在時間で按分した「換算人口値」で、1か月における1日あたりの平均です。1人が複数のメッシュに分割して計上されます。国土交通省の事例集も、この種のデータは「実際のカウント数ではないため、実績値としては使えない」としています。
Q. データが入っていないメッシュは人がいないということですか。
A. 違います。定義書に「プライバシー保護のため、換算人口値が10人未満のメッシュは出力しておりません。」とあり、10人未満は行そのものが出てきません。データが無いことと人がいないことは区別できないため、ゼロとみなして足し上げると過小に出ます。
Q. 性別や年齢別の人流データは無料で見られますか。
A. 国土交通省のオープンデータには性別・年齢階級の区分がありません。無料で性年代別を見るならRESASのマーケティングマップにある滞留人口メッシュ分析・通過人口メッシュ分析で、公式説明にも「性年代別構成を表示します」とあります。ただし民間データのためダウンロードはできず、画面で確認する使い方になります。
Q. 夜間人口と滞在人口はどちらを商圏人口として使えばよいですか。
A. 母数として使うなら夜間人口です。国勢調査による全数の実数で、500mメッシュまで細かく取れます。滞在人口は買い物や観光も含めた動きを傾向として掴むためのもので、推計値であり空間単位も1kmメッシュまでです。母数を国勢調査で固め、人流データはその上に傾向として重ねる順番が実務では扱いやすくなります。