出店候補地を見に行って最初に気になるのが「この道、どれくらい人が歩いているのか」です。人口も所得も統計で引けるのに、この一点だけは統計を探しても出てきません。理由ははっきりしていて、歩行者の数を全国規模で数えた公的統計が存在しないからです。

この記事では、まず「なぜ無いのか」を一次情報で確認し、そのうえで自治体が公表している調査をどう使うか、自分で数える場合に何を決めておく必要があるかを整理します。商圏分析全体の流れから確認したい方は、商圏分析のやり方 完全ガイドにデータ入手から出店判断までの手順をまとめています。

結論

通行量調査は、公的統計で代替できない数少ない項目です。国の道路交通センサスが集計表で公表しているのは自動車類の交通量だけで、歩行者の数は公表項目にありません。自治体は歩行者を数えていますが、調査日・時間帯・数える対象がまちまちで、国のガイドライン自身が「複数の都市間の比較はできない」と明記しています。したがって実務では「自治体の公表値でその街の推移をつかみ、店前の数字は自分で数える」という二段構えになります。自分で数えるときは、人数ではなく条件(日・時間帯・対象・どちら側の歩道か)を先に決めて記録することが、後から使える数字にするための条件です。

この記事の要点
  • 令和3年度 全国道路・街路交通情勢調査の一般交通量調査で公表されている交通量は昼間12時間自動車類交通量・24時間自動車類交通量で、歩行者の通行量は公表項目に無い。歩道の幅員や設置率といった道路の構造は測っている
  • 同調査は「自転車専用道路、自転車歩行者専用道路、歩行者専用道路は、調査対象としていない」と明記している。歩行者専用の道はそもそも対象外
  • やり方には国のガイドラインがある。国土交通省都市局「まちの活性化を測る歩行者量調査のガイドライン(ver1.1)」(平成31年3月)は、時期を5月下旬〜7月上旬または9月下旬〜11月上旬、時間帯を7時〜19時が一般的としている
  • 同ガイドラインは「地点選定の仕方次第で数値が異なることになるため、複数の都市間の比較はできないことに留意が必要です」と明記。他市との横比較は国が否定している
  • 同じ道路でも歩道の左右で通行量が変わる。ガイドラインが挙げる福井市の例では南北の歩道で約4倍の差がある
  • 公表データに頼れる範囲は狭まっている。令和6年度 商店街実態調査で通行量調査を実施している商店街は16.5%(定期的6.0%+必要に応じて10.5%、n=4,042)

通行量調査は「自分で数える」領域

商圏分析で使う数字のほとんどは、公的統計から無料で引けます。人口は国勢調査、事業所数は経済センサス、消費支出は家計調査というように、出典と年次を書けば検証可能な形で組み立てられます。商圏調査の中身を数える工程は、ほぼこれで足ります。

ところが通行量だけは事情が違います。歩行者の数は、誰かがその場に立って数えるか、カメラやセンサーを置くかしないと得られません。そして国は、全国を対象にした歩行者数の統計を公表していません。だから「通行量調査」という言葉は、統計を調べる作業ではなく、実施する作業を指します。

ただし「やり方が決まっていない」わけではありません。国土交通省都市局が「まちの活性化を測る歩行者量調査のガイドライン(ver1.1)」(平成31年3月)を出しており、実務の標準はここに書かれています。統計を探すのではなく、このガイドラインを読んで自分で設計するのが正しい入口です。

道路交通センサスの公表値に歩行者はない

全国道路・街路交通情勢調査(道路交通センサス)は、全国の道路の交通量と道路現況を調べる国の調査です。名前から歩行者も含まれていそうに見えますが、令和3年度調査の説明資料(国土交通省「令和3年度一般交通量調査について」)で公表項目を確認すると、交通量の集計項目は昼間12時間自動車類交通量(台/12h)24時間自動車類交通量(台/24h)で、歩行者の通行量は項目にありません。人手観測の車種分類として定義されているのも、小型車(軽乗用車・小型乗用車・軽貨物車・小型貨物車)と大型車(バス・普通貨物車・特種(殊)車)だけです。

正確に言えば、観測の現場では歩行者を数えていることがあります。東京都建設局が公表している一般交通量調査の報告書(平成27年度調査分)には「通行車両等は、歩行者類、自転車類、動力付き二輪車及び自動車類(4 区分)に分類し観測する」とあり、歩行者類の定義も「歩いている人、走っている人、身体障害者用車いすに乗っている人、乳母車を押す人…」と細かく決められています。つまり観測されてはいるが、全国の集計表として公表されるのは自動車類だけという構造です。自転車類は、交通容量を補正する係数の計算に使われています。

さらに調査対象路線の説明には「大規模自転車道など都道府県道となっている自転車専用道路、自転車歩行者専用道路、歩行者専用道路は、調査対象としていない」と書かれており、歩行者しか通らない道は最初から範囲外です。

センサスがまったく無関係かというとそうではありません。同調査の道路状況調査には、歩道幅員、自転車歩行者道設置延長率、両側自転車歩行者道設置延長率といった項目があります。これらは歩行者が何人通ったかではなく、歩行者が通れる構造になっているかを示す数字です。候補地の前の道に歩道があるか、両側かといった判断には使えます。センサスの読み方は道路交通センサスの調べ方に整理しています。

出典:国土交通省「令和3年度 全国道路・街路交通情勢調査 一般交通量調査 箇所別基本表及び時間帯別交通量表に関する説明資料」、東京都建設局「2 調査の概要」(平成27年度調査)。なお2026年8月13日時点で公表されている最新結果は令和3年度です。令和7年度調査は実施されており、群馬県の報道提供資料には「従来の現地での人手観測を原則廃止し、ビデオカメラ等で機械観測を行う」「機械観測による撮影画像から、AIが人・自転車・車種区分を自動で判別する」と記載されています。

自治体の調査は条件がそろわない

歩行者を数えているのは自治体です。中心市街地活性化や商店街振興の基礎資料として、多くの市が毎年または隔年で通行量調査を実施し、結果を公表しています。無料で使えるうえに定点で長期の推移が取れるため、街全体の勢いを見るには有力な材料です。

問題は、調査の条件が市ごとに違うことです。実際に公表ページを確認した3市を並べると、次のようになります。

調査日時間帯数える対象頻度・規模
秋田市
(中心市街地歩行者・自転車通行量調査)
原則7月後半の休日およびその直後の平日午前10時から午後7時までの9時間中学生以上の歩行者および自転車最新は令和7年度
福岡市
(歩行者交通量等調査)
平日および休日に1日ずつ午前7時から午後8時まで1時間ごとに集計歩行者および自転車最新は令和6年度(令和3年度・平成28年度と比較)
鹿児島市
(主要商店街歩行者通行量調査)
令和6年10月17日(木)・19日(土)・20日(日)の3日間公表ページに記載なし歩行者1年おき・158地点

3市とも「通行量調査」という同じ名前ですが、秋田市は中学生以上に限って自転車も数え、福岡市は年齢の限定なしに自転車を含め、鹿児島市は歩行者を数えています。時間帯も9時間と13時間で異なります。この横比較の不可能性は、国のガイドライン自身が明記しています。「地点選定の仕方次第で数値が異なることになるため、複数の都市間の比較はできないことに留意が必要です」——他市の数字を持ってきて並べる資料は、この一文で否定されます。

同じガイドラインは、同じ市の同じ地点であれば経年変化の評価は「一般的に行われている」としつつ、都市構造そのものが大きく変わって個々の調査地点の意味合いが変わる場合には経年評価も難しくなる、と留保を付けています。

実務での使い方は次の2つに絞られます。1つは、候補地がその市の調査地点に含まれている場合に、その地点の推移を見ること。もう1つは、候補地が含まれていない場合に、市全体または近い地点の増減傾向だけを背景情報として使うことです。いずれの場合も、資料には市名・年度・時間帯・対象を必ず書き添えます。書かないと、後から「その数字は何時から何時のものか」と聞かれて答えられなくなります。

なお、公表データに頼れる範囲は年々狭まっています。令和6年度の商店街実態調査(全国商店街振興組合連合会。調査時点は令和6年10月1日現在、有効回答4,824件)では、通行量調査を「定期的に実施」している商店街が6.0%、「必要に応じて実施」が10.5%、「実施していない」が74.7%でした(n=4,042)。実施しているのは合わせて16.5%です。候補地の街に公表データがあること自体が、当てにできる前提ではありません。

人流データで代替できる範囲

「携帯電話の位置情報から人の流れが分かる」という話を聞いて、それで代替できないかと考える方は多いはずです。結論から言うと、無料の範囲では代替になりません。

国土交通省の全国人流オープンデータは、1kmメッシュ別の滞在人口と市区町村単位発地別の滞在人口を公開していますが、集計期間は2019年1月から2021年12月の各月で止まっています。データセットのページには「本データセットは、コロナウィルス対策調査の一環で公開されたものです。2022年以降の公開予定はございませんので、ご了承ください。」と明記されています(2026年8月13日に取得して確認)。

加えて、仮に最新であっても粒度が合いません。人流オープンデータの単位は1kmメッシュで、これは徒歩10分商圏(およそ2.0平方キロメートル)に対して2個ぶんしかない粗さです。店の前を通る人の数を知りたい用途には、桁が違います。人流データの中身と限界は人流データとは?無料で使える範囲と限界で詳しく扱っています。

有料の人流データ(携帯キャリアや位置情報アプリ由来)であれば、メッシュをさらに細かく切ったり、時間帯別に見たりできます。ただしこれらも実測のカウントではなく、サンプルを母集団に拡大推計した値です。「実測値ではなく推計値である」ことを資料に明記して使うのが前提になります。

自分で数えるときに決める5つ

店前の通行量は、結局その場で数えることになります。難しい作業ではありませんが、条件を決めずに始めると、数えた数字が後で使えなくなります。国のガイドラインが示す実務の目安を土台に、先に決めておく項目は次の5つです。

1
地点

候補物件の前だけでなく、比較用にもう1〜2地点を取ります。近隣の既存店の前、最寄り駅からの導線上など、「差が出るはずの場所」を選ぶと解釈しやすくなります。地点は住所ではなく、どちら側の歩道かまで記録します。ガイドラインは福井市の例として、市が「にぎわい軸」と位置づけている商店街を貫通する道路の北側歩道と南側歩道で通行量が約4倍違うことを挙げ、歩行環境にほとんど差がないのに沿道に百貨店が立地する南側が高くなっていると説明しています。道単位で見ていると、この差が消えます。

2
時期と曜日

ガイドラインは、年間の平均的な通行量を把握する場合の時期を「通常、5 月下旬~7 月上旬または 9 月下旬~11 月上旬に行います」としています。そのうえで平日と休日を必ず分けます。連休、地域の祭り、大型商業施設のセール期間は避けるか、避けられないなら記録に残します。天候も記録します。雨天の数字を晴天の数字と混ぜると比較になりません。

3
時間帯

ガイドラインは「7 時~19 時とするのが一般的です」としています。ただし全時間を人手で数えるのは負担が大きいので、業態の来店ピークに合わせて時間帯を切るのが現実的です。飲食なら昼と夜、物販なら夕方というように、自分の業態が売上を作る時間を必ず含めます。何時から何時までを何回に分けて数えたかを、そのまま記録に書きます。

4
数える対象

歩行者だけか、自転車を含めるか。年齢層や性別を分けるか。ベビーカーや車椅子を分けるか。秋田市が「中学生以上」と限定しているように、対象の定義は結果を大きく変えます。あとから分けることはできないので、最初に決めます。

5
記録の粒度

合計だけでなく、15分または1時間ごとの内訳を残します。合計が同じでも、夕方に集中しているのか一日中平坦なのかで、店の設計は変わります。福岡市が1時間ごとに集計しているのはこのためです。

数える手段は、手動計数器(カウンター)を使うのが最も確実です。ガイドラインは、通行量が多く高密度な場合には「カウントの抜け、重複計測の可能性があることから、複数の調査員の配置が必要とされます」としています。1人で数え切れる量かどうかは、下見の段階で見当をつけておきます。人手をかけずに済ませたい場合はビデオ撮影して後から数える方法もありますが、撮影する範囲に通行人が写るため、設置場所と管理方法は事前に確認が必要です。

通行量を出店判断にどう使うか

通行量は、それ単体では出店の可否を決められません。1日1万人が通る場所でも、通っているのが自店の客層でなければ売上にはつながらないからです。判断に使うときは、次の順で他の材料と組み合わせます。

段階見るものデータの入手先
1そのエリアに何人住んでいるか(夜間人口)国勢調査(無料)
2昼間に何人いるか(昼間人口)国勢調査 従業地・通学地集計(無料)
3店の前を何人通るか自治体調査または自分で計測
4通る人が自店の客層か通行量調査時の目視記録・既存店の実績
5競合が同じ人を取り合っていないか現地確認・地図上の重なり

1と2は統計だけで進みます。昼間人口の調べ方で示したとおり、住んでいる人の数と昼間そこにいる人の数は別物で、オフィス街と住宅地では逆転します。3で初めて自分で数える作業が入り、4以降は現地で見た事実を積み上げていきます。

そして通行量の数字は、範囲の議論の代わりにはなりません。店の前を通る人が多いことと、その店に来る人がどこから来ているかは別の問題です。円で切った商圏と実際の顧客分布のズレについては円商圏と実勢商圏のズレで扱っています。通行量は「立地の力」を測る材料の1つであって、商圏の範囲を決める材料ではないと整理しておくと、資料の組み立てで迷わなくなります。

補足:本記事で引用した国のガイドラインは、国土交通省都市局「まちの活性化を測る歩行者量調査のガイドライン(ver1.1)」(平成31年3月)です。時期と時間帯の目安には「交通調査実務の手引」(社団法人 交通工学研究会 交通技術研究小委員会)を典拠とする注が付いており、国が独自に定めた規格ではなく実務慣行の紹介という位置づけです。自治体3市の調査条件と商店街実態調査の数値は、2026年8月13日に各公表ページ・報告書を取得して確認しました。調査条件は年度により変わるため、引用の際は該当年度の報告書をご確認ください。

よくある質問

通行量調査のデータはどこかで無料公開されていますか?

全国をカバーした公的な歩行者通行量のデータはありません。市区町村単位では、中心市街地や商店街を対象に調査を実施し、結果をウェブサイトで公開している自治体が多くあります。候補地の市区町村名と「歩行者通行量調査」で探すのが早い方法です。

道路交通センサスに歩行者の数は載っていますか?

載っていません。令和3年度一般交通量調査で数えている対象は自動車類(小型車・大型車)で、歩行者と自転車の通行量は集計項目にありません。歩道の幅員や設置率といった道路構造の項目は含まれています。

自治体の調査結果を、他の市の数字と比べてもいいですか?

できません。国土交通省都市局のガイドラインが「地点選定の仕方次第で数値が異なることになるため、複数の都市間の比較はできないことに留意が必要です」と明記しています。実際に秋田市は午前10時から午後7時の9時間で中学生以上を対象とし、福岡市は午前7時から午後8時まで1時間ごとに歩行者と自転車を数えています。同じ市の同じ地点で年次推移を見る使い方が適しています。

人流データで通行量の代わりになりますか?

無料の全国人流オープンデータは2021年12月分で公開が終了しており、単位も1kmメッシュと粗いため、店前の通行量の代わりにはなりません。有料の人流データは細かく見られますが、実測のカウントではなく推計値である点を明記して使う必要があります。

何日ぶん数えれば十分ですか?

日数を定めた基準はありません。国土交通省都市局のガイドラインが示しているのは時期(5月下旬から7月上旬、または9月下旬から11月上旬)と時間帯(7時から19時)で、日数の規定はなく、掲載されている5都市の実例はいずれも調査時期・目的ごとに1日調査です。自治体でも平日と休日を1日ずつが多く、これが最小限の目安になります。

通行量が多ければ売上も上がりますか?

直結しません。通行している人が自店の客層かどうか、立ち止まれる歩道の幅があるか、視認できる位置に店があるかで結果は変わります。通行量は立地を評価する材料の1つで、それだけで出店可否を決められるものではありません。

数えるとき、自転車は含めるべきですか?

業態によります。徒歩で入店する業態であれば歩行者だけを数えるほうが実態に近くなります。自治体の調査は自転車を含めるものと含めないものの両方があるため、公表値を引用する際は、その調査がどちらなのかを確認してください。