「出店計画書を出してください」と言われて最初に困るのは、どの様式に何を書けばいいのかが決まっていないことです。テンプレートを探しても、出てくるのは会社ごとの独自フォーマットばかりで、項目も分量もばらばらです。

ただし、融資を受けるなら事実上の共通様式が1つあります。日本政策金融公庫の「創業計画書」です。A4・1枚に10項目という決まった形で、記入例も業種別に公表されています。この記事では、その様式を実物で確認しながら、商圏データが本当に要るのはどの欄なのかを切り分けます。商圏分析全体の流れから確認したい方は、商圏分析のやり方 完全ガイドにデータ入手から出店判断までの手順をまとめています。

結論

公庫の創業計画書はA4・1枚に10項目。このうち商圏データが要るのは3つの欄だけです。「3 取扱商品・サービス」の中にある販売ターゲット・販売戦略(集客方法)競合・市場など自社を取り巻く状況、そして「9 事業の見通し(月平均)」に付いている売上高の計算根拠の欄です。残り7項目は経歴・資金・取引先など、地図の外側で決まる情報です。逆に言えば、商圏を調べる目的は、この3欄を数字で埋めることに尽きます。公庫の記入例(婦人服・子供服小売業)の売上根拠は「7,500円(平均単価)×10人/日×26日=195万円」ですが、単価と営業日数は自分で決められる一方、1日10人という客数だけは外から決まります

この記事の要点
  • 「出店計画書」という法定様式は存在しない。融資で使う共通様式は日本政策金融公庫の創業計画書(国民生活事業)
  • 様式は10項目。商圏データが要るのは販売ターゲット・販売戦略/競合・市場など自社を取り巻く状況/売上高の計算根拠の3つ
  • 様式には「売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算された根拠をご記入ください。」という欄が明示されている
  • 公庫の記入例は競合欄を「近隣に同業者は5店舗あるが、親子向けお揃いの服を取り揃えている店は少なく、差別化できる。」と書いている。数と質の両方に触れている点が要点
  • 母数に使う統計の最新確定年次は、国勢調査のメッシュ人口が令和2年(2020年)、駅別乗降客数が令和5年度(2023年度)(国土数値情報S12-24)

出店計画書に法定の様式はない

先に前提を揃えておきます。「出店計画書」という名前の法定様式はありません。フランチャイズ本部に提出するもの、社内稟議に回すもの、金融機関に出すもの——呼び名は同じでも、求められる項目は提出先ごとに違います。

そのうえで、書き方の基準として使えるものが1つあります。日本政策金融公庫(国民生活事業)が公表している創業計画書です。融資の申込みに添える書類で、様式と業種別の記入例がPDFで公開されています。様式の冒頭にはこう書かれています。

「この書類は、ご面談にかかる時間を短縮するために利用させていただきます。」「お手数ですが、可能な範囲でご記入いただき、借入申込書に添えてご提出ください。」「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です。」

3つ目の一文が重要です。自作の計画書に差し替えてよいと明記されています。つまりこの様式は、提出を強制する枠ではなく、「最低限これだけの項目に答えられていればよい」という項目リストとして読めます。社内向けの出店計画書を作る場合も、この10項目を骨格に据えると抜けが出ません。

公庫の創業計画書は1枚・10項目

様式に並んでいる10項目は次のとおりです。左列に商圏データが要るかどうかを付けました。

項目主な記入内容商圏データ
1 創業の動機目的・動機不要
2 経営者の略歴等勤務先・担当業務・役職・取得資格不要
3 取扱商品・サービス取扱内容と売上シェア、セールスポイント、販売ターゲット・販売戦略(集客方法)競合・市場など自社を取り巻く状況要(2欄)
4 従業員3か月以上継続雇用の予定人数不要
5 取引先・取引関係等販売先・仕入先・外注先、回収と支払の条件不要
6 関連企業経営している企業不要
7 お借入の状況事業・住宅・車・教育・カード等不要
8 必要な資金と調達方法設備資金・運転資金と調達内訳不要
9 事業の見通し(月平均)売上高・売上原価・経費とその計算根拠、客単価・営業日数・営業時間・定休日要(根拠欄)
10 自由記述欄アピールポイント、悩み、希望するアドバイス不要

10項目のうち7つは、経歴・資金・取引条件といった自分の内側にある情報です。調べるのではなく思い出して書く欄で、ここに時間をかけても計画の説得力は上がりません。

商圏データが要るのは3欄だけ

残りの3欄が、外の世界を調べないと埋まらない部分です。しかも様式には根拠を求める一文が明示されています。

「売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算された根拠をご記入ください。」

この一文があるために、「月商195万円を見込む」とだけ書いた計画書は様式の要求を満たしません。どう計算したかまでが記入欄の中身です。商圏を調べる目的は、ここに置く数字を用意することにあります。立地調査を先に体系立てて進めたい場合は立地調査とは?公的データでの進め方を参照してください。

欄① 販売ターゲット:誰が何人いるか

公庫の記入例(婦人服・子供服小売業)は、この欄を次のように書いています。

「子育て世代の30代前後の女性がメインターゲット。」
「ターゲットとなる子育て世代の流入が多い○○駅近くに店舗を構えて需要を取り込む。」

読み手の立場で見ると、後半の一文には検証できる主張と、できない主張が混ざっています。「子育て世代の流入が多い」は数字で確かめられる部分です。ここを裏付けるのが商圏データで、使う統計は2つに分かれます。

  • 住んでいる人:国勢調査の小地域集計・メッシュ人口。500mメッシュ人口は令和2年(2020年)確定値が現時点の確定版です(令和7年調査のメッシュ統計は確定待ち)。町丁目単位で年齢構成まで見る方法は町丁目の人口を調べる方法、円で切る手順は商圏人口の調べ方。無料で算出する4ステップにまとめています
  • 通っている人:国土数値情報の駅別乗降客数(S12)。最新版S12-24の収録年次は令和5年度(2023年度)の1日平均乗降客数です。取得手順と、同一駅が路線ごとに重複計上される罠については駅の乗降客数を無料で調べる方法で解説しています

「駅近くだから人が多い」で止めず、乗降客数(乗車+降車の合計)を1日あたりの実数で書く。それだけで、この欄は印象論から検証可能な記述に変わります。

欄② 競合・市場:数えられるのは事業所数

同じ記入例の競合欄はこう書かれています。

「近隣に同業者は5店舗あるが、親子向けお揃いの服を取り揃えている店は少なく、差別化できる。」

この一文は数(5店舗)と質(品揃えの違い)の両方に触れている点が要点です。片方だけでは足りません。数だけなら「多いから不利」としか読めず、質だけなら根拠のない自己評価になります。

このうち数のほうは公的統計で数えられます。経済センサスの事業所数を業種分類(日本標準産業分類)で絞れば、市区町村単位の同業者数が分かります。手順と、業種の絞り込みで数が大きく変わる点は経済センサスの事業所数とは?競合の数え方にまとめました。市場規模の側を金額で示すなら、家計調査の1世帯あたり品目別支出に商圏の世帯数を掛ける方法があります(家計調査とは?商圏の市場規模の出し方)。

なお大型店の出店予定は、大規模小売店舗立地法の届出で事前に公表されます。これから競合が増えるかどうかを確認する数少ない手段です(大規模小売店舗立地法とは?届出でわかる競合出店)。

欄③ 売上高の根拠:客数だけが外から決まる

3つ目が、様式の中でもっとも重い欄です。記入例の売上根拠を逐語で見ます。

「<創業当初> ①売上高 7,500円(平均単価)×10人/日×26日=195万円」

3つの数字のうち、平均単価と営業日数は自分で決められます。価格設定と定休日の話だからです。実際、様式には客単価・営業日数・営業時間・定休日を書く欄が別に用意されていて、そこに入れた値をそのまま使う構造になっています。

残る「10人/日」だけが、自分では決められない数字です。ここは商圏の側から積み上げるしかありません。組み立て方は次の順になります。

  1. 到達圏の母数を出す(徒歩10分・車15分など、切り方を決めてから人口を集計する)
  2. ターゲット層の割合を掛ける(年齢・世帯構成で絞る)
  3. 来店頻度と競合数で割る

ここで効いてくるのが切り方の影響の大きさです。見晴のデモ4店舗での実測では、同じ地点でも半径4km圏の夜間人口32.1万人に対し、徒歩10分の到達圏は1.7万人、車15分は37.6万人でした(2026年7月23日実測・夜間人口)。母数が20倍以上変わるので、円で切ったのか到達圏で切ったのかを書かないままの客数は、根拠として機能しません。円と実勢のずれについては円商圏と実勢商圏はどれだけズレるかで扱っています。

なお、公庫の様式は「1年後又は軌道に乗った後」の欄も設けています。記入例はここを「創業当初の1.2倍(勤務時の経験から)」としており、伸び率の根拠を経験に置く書き方も許容されています。すべてを統計で埋める必要はなく、統計で言える部分と経験で言う部分を分けて書くのが実務的です。

数字に添える3点セット

最後に、書き方の作法をまとめます。商圏の数字を計画書に載せるときは、値だけでなく次の3つを必ず添えてください。

  • 出典(統計の名称。例:国勢調査、経済センサス、国土数値情報S12)
  • 年次(調査年。国勢調査のメッシュ人口なら令和2年、駅別乗降客数なら令和5年度)
  • 切り方(半径何kmの円か、徒歩何分の到達圏か、市区町村単位か)

この3つが揃っていると、読み手は数字を自分で再現できます。逆にどれか1つでも欠けると、面談の場で「その人口はどこからですか」という質問に時間を取られます。計画書の説得力は、数字の大きさではなく再現できるかどうかで決まります。推定値を使う場合は「推定」と明記し、算定方法も1行で添えておくと安全です。

よくある質問

Q. 出店計画書に決まった様式はありますか。
A. 法定の様式はありません。融資の申込みで使う共通様式としては、日本政策金融公庫(国民生活事業)の創業計画書があり、様式と業種別の記入例がPDFで公開されています。同様式には「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です。」と明記されており、自作の計画書に差し替えることもできます。

Q. 創業計画書のどこに商圏の数字を書きますか。
A. 3か所です。「3 取扱商品・サービス」の中の「販売ターゲット・販売戦略(集客方法)」欄と「競合・市場など自社を取り巻く状況」欄、そして「9 事業の見通し(月平均)」に付いている売上高等の計算根拠の欄です。様式には「売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算された根拠をご記入ください。」と書かれています。

Q. 1日の来客数はどう見積もればよいですか。
A. 到達圏の母数からターゲット層の割合を掛け、来店頻度と競合数で割って積み上げます。このとき商圏の切り方を必ず明記してください。見晴のデモ4店舗の実測では、同じ地点でも半径4km圏の夜間人口32.1万人に対し、徒歩10分の到達圏は1.7万人、車15分は37.6万人で、切り方によって母数が20倍以上変わります。

Q. 競合の数はどの統計で数えますか。
A. 経済センサスの事業所数を日本標準産業分類で絞ると、市区町村単位の同業者数が分かります。今後の出店予定を確認したい場合は、大規模小売店舗立地法の届出が事前に公表されるため、大型店についてはこちらで把握できます。