駅から離れた土地の出店を検討するとき、「この物件の前にバス停がある」は判断材料になります。では、そのバス停に1日何人が乗り降りしているのか。駅なら調べられるので、バス停も同じように調べられるはずだと考えて探し始めた方が、この記事にたどり着いていると思います。
結論から書くと、バス停の位置と系統は無料で全国分が手に入りますが、停留所ごとの乗降客数を全国横断で取れる公的なデータは存在しません。しかも、これは「まだ整備されていない」のではなく、国が受け取っている報告のなかにそもそも項目が無い、という構造的な理由によるものです。この記事では、何が取れて何が取れないのかを、公式の仕様書と法令の条文で確かめたうえで、代わりに何を見て判断するかまで整理します。商圏分析の全体像から確認したい方は商圏分析のやり方 完全ガイドを先にご覧ください。
バス停の位置は国土数値情報「バス停留所」(P11)で全国分を無料で入手できます。ただし属性は6項目しかなく、乗降客数は含まれていません。運行の詳細を知りたい場合は各事業者のGTFS-JPデータを使いますが、こちらの仕様書にも乗降客数のフィールドはありません。駅には国土数値情報S12「駅別乗降客数」があるのに、バス停版は存在しない——この非対称が、バス停を商圏評価に使うときの最大の制約です。
- 国土数値情報「バス停留所」(P11)の最新は令和4年度版。属性は地点・バス停名・バス事業者名・バス系統・バス区分コード・備考の6項目だけ
- 使用許諾条件は版によって正反対。令和4年度=オープンデータ/平成22年度=非商用。古い版を掴むと提案書に使えない
- GTFS-JPの最新は「公共交通運行情報標準データ仕様(GTFS-JP)第4.0版」令和8年3月。170ページ全文を数えて「乗降人員」「乗降客数」「利用者数」はいずれも0件
- データ公開は努力義務(地域公共交通活性化再生法 第4条第4項)。ただし停留所の時刻表をウェブに載せることは運輸規則で義務。人が読む形と機械が読む形は法令上まったく別扱い
- バス停の評価は「何人乗るか」ではなく「何系統・何本・どこ行きか」で行う。取れる項目がそれしかないため
国土数値情報でバス停の位置を取る
最初の入口は国土交通省の国土数値情報ダウンロードサイトです。「バス停留所」というデータが識別子 P11 で公開されています。中身の説明は公式ページにこう書かれています。
「全国のバス停留所の位置(点)、名称、区分(民間路線バス、公営路線バス、コミュニティバス)、事業者名、バス系統について整備したものである。」
対象は民間路線バス・公営路線バス・コミュニティバスの3種類です。高速バスや貸切バス、無料シャトルは含まれません。データ作成年度は令和4年度(作成時点:概ね令和4年8月)で、その前は平成22年度です。12年空いているので、令和4年8月以降に新設・廃止された停留所は反映されていないと考えてください。
属性の一覧は次の6つです。これがすべてで、7つ目はありません。
| 属性名(shp属性名) | 説明 |
|---|---|
| 地点 | バス停留所の位置(点型) |
| バス停名(P11_001) | バス停留所の名称 |
| バス事業者名(P11_002) | バス路線を運営する事業者名(コミュニティバスは自治体名) |
| バス系統1〜35(P11_003_01〜35) | バス路線の系統番号・系統名 |
| バス区分コード(P11_004_01〜35) | バス路線の運行形態による区分 |
| 備考(P11_005) | — |
使うときに最も注意が必要なのはライセンスです。版によって条件が正反対になります。公式ページの「このデータの使用許諾条件」欄には、次のように併記されています。
「平成22年度:非商用」「令和4年度:「国土数値情報ダウンロードサイトコンテンツ利用規約」に基づく(オープンデータ)」
検索から古い版のページに着地してしまうと、そこには「非商用」だけが書かれています。提案書や受託業務で使うなら、令和4年度版であることを必ず確認してください。同じ罠は他のデータにもあり、駅のデータでも過去に版の取り違えが起きています。
乗降客数は入っていない。駅との違い
ここがこの記事の本題です。P11の属性一覧に乗降客数はありません。公式ページの本文を機械的に検索したところ、「乗降」も「利用者数」も0件でした。属性の型が定義されているのは前節の6項目だけです。
これが痛いのは、鉄道の駅には同じ国土数値情報のなかに乗降客数のデータが存在するからです。識別子 S12「駅別乗降客数」がそれで、地物の説明は「駅ごとの1日あたり乗降客数」。原典資料は鉄道事業者提供資料で、令和6年度(2024年度)版まで整備されています。使用許諾条件も「オープンデータ(CC_BY_4.0)」です。取得手順は駅の乗降客数を無料で調べる方法にまとめています。
| 項目 | 駅(S12) | バス停(P11) |
|---|---|---|
| 位置 | あり | あり |
| 名称・事業者 | あり | あり |
| 1日あたり乗降客数 | あり | なし |
| 最新の整備年度 | 令和6年度(2024年度) | 令和4年度(2022年度) |
| 使用許諾条件 | オープンデータ(CC_BY_4.0) | オープンデータ(令和4年度版) |
つまり、駅前物件については「1日◯万人が乗降する駅の徒歩5分」と数字で書けるのに、バス停前の物件については同じ書き方ができません。この非対称を知らないまま調査を始めると、探し続けて時間だけが溶けます。先に「無い」と分かっていれば、別の指標に切り替える判断が早くできます。
GTFS-JPで運行の中身を取る
位置だけでは足りない場合、次に見るのが各事業者が公開している運行データです。日本ではこれを標準化した仕様があり、以前は「標準的なバス情報フォーマット」と呼ばれていました。
現在の正式名称は変わっています。最新版は「公共交通運行情報標準データ仕様(GTFS-JP)第4.0版」(令和8年3月・国土交通省総合政策局)で、全170ページです。対象がバス単独から広がったことに伴う改称なので、古い名前で検索していると最新版にたどり着けません。
この仕様書にも、乗降客数のフィールドはありません。170ページ全文を抽出して数えた結果が次のとおりです。
| 語句 | 出現回数(全170ページ・194,841字) |
|---|---|
| 乗降人員/乗降客数/利用者数/輸送人員/乗車人員 | いずれも0件 |
| 告示 | 0件 |
| 義務 | 0件 |
| 努力 | 0件 |
後半の3行も実務上は重要です。この仕様書は告示ではなく、事業者に義務を課す文書でもありません。純然たる技術仕様書で、どういう形式で書けば経路検索サービスに載るかを定めたものです。
では実際にどれくらいの事業者が公開しているのか。一般社団法人日本バス情報協会が運営する「GTFSデータリポジトリ」(gtfs-data.jp)の公開APIを2026年8月18日に取得したところ、407事業者・490フィード・548ファイルが登録されていました。認証は不要で、そのままダウンロードできます。
取得できるのは、停留所の一覧(緯度経度つき)、路線、便、停留所ごとの発着時刻、運賃、運行日です。「この停留所に平日何本止まるか」「始発と終発は何時か」「どこ行きの系統が通っているか」は、ここから機械的に数えられます。ただし全事業者が公開しているわけではないので、候補地の事業者が登録されているかは個別に確認が必要です。
なぜ乗降客数が公的に出てこないのか
「まだデータ化が進んでいないだけで、そのうち出るのでは」と考えたくなるところですが、法令の側を見ると事情が違います。
まず、データ公開そのものは義務ではありません。地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の第四条第4項は、事業者についてこう定めています。
「公共交通事業者等は、自らが提供する旅客の運送に関するサービスの質の向上並びに地域公共交通の利用を容易にするための情報の提供及びその充実に努めなければならない。」
「努めなければならない」——努力義務です。データ形式の指定も、公開の義務もありません。
一方で、まったく別のところに義務があります。旅客自動車運送事業運輸規則の第五条第3項は、路線定期運行を行う事業者に対して、停留所ごとに次の事項を公示しなければならないと定めています。
| 号 | 公示すべき事項(原文の趣旨) |
|---|---|
| 一 | 事業者及び当該停留所の名称 |
| 二 | 当該停留所に係る運行系統 |
| 三 | 前号の運行系統ごとの発車時刻(運行回数の頻繁な運行系統は、始発・終発の時刻と運行間隔時間で代替可) |
| 四 | 乗降場所が複数ある場合等に、他方の乗降場所・停留所に係る運行系統及びその位置 |
| 五 | 業務の範囲を限定する条件が付されている事業は、その業務の範囲 |
さらに同条第4項は、この公示の方法について「停留所において公衆に見やすいように掲示するとともに、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、一般乗合旅客自動車運送事業者のウェブサイトへの掲載その他の適切な方法により行うものとする」と定めています。除外されるのは、常時使用する従業員が20人以下の場合と、自ら管理するウェブサイトを持っていない場合です。
ここに整理の核心があります。法令が求めているのは「停留所の名称・系統・時刻を人が読める形で掲示し、ウェブにも載せること」までです。機械可読な形式にすること、再利用できるライセンスを付けること、まして利用実績を公開することは、どこにも求められていません。
そして利用実績の側を見ると、国が受け取っている報告そのものに停留所別の項目がありません。乗合バスの輸送実績は運行系統(路線)単位で報告される仕組みで、国の統計も都道府県単位までしか公表されていません。集めていないものは、公開されようがありません。
バス停を商圏評価にどう使うか
乗降客数が無い以上、バス停は「何人来るか」ではなく「どれだけつながっているか」で評価するしかありません。取れる項目から組み立てると、次の4つになります。
P11のバス系統は最大35個まで格納されています。候補地の最寄り停留所に何系統が通っているかは、それだけで結節点かどうかの目安になります。1系統しか通らない停留所と、8系統が集まる停留所では性格がまったく違います。
ここはGTFS-JPの出番です。停留所ごとの発着時刻が入っているので、平日の運行本数、始発・終発の時刻、朝夕のピークを機械的に数えられます。「1時間に1本」と「10分に1本」では、同じバス停でも商圏への寄与がまるで違います。
系統の行き先が主要駅なのか、住宅地の折り返しなのかで、流れる方向が変わります。駅に向かう系統は朝の流出、住宅地に向かう系統は夕方の流入を意味します。店の業態が朝型か夕方型かと突き合わせてください。
バスの利用実績が取れない以上、最後は候補地まわりに何人住んでいるかで判断するのが確実です。町丁目単位なら小地域集計、円や到達圏で数えるなら500mメッシュ人口を使います。算出手順は商圏人口の調べ方にまとめています。
バス停の情報は、商圏の広さを決めるためではなく、商圏の形が歪む方向を読むために使うのが実務的です。円で描いた商圏と実際の商圏がどれだけずれるかは円商圏と実勢商圏はどれだけズレるかで扱っていますが、バス路線はそのずれを生む代表的な要因のひとつです。
交通量そのものを押さえたい場合は、道路交通センサスで自動車交通量を、通行量調査で歩行者の実数を確認する方法があります。人の移動を面で見たいときは人流データの無料で使える範囲も選択肢になります。いずれも「バス停ごと」には降りてきませんが、エリアの交通の性格をつかむには足ります。
業態別の目安と組み合わせるなら、コンビニの商圏人口や飲食店の商圏範囲、スーパーの商圏人口が出発点になります。候補地を並べる段階での進め方は立地調査の進め方、複数店舗の展開を前提にするならフランチャイズ出店の立地の選び方を参照してください。
よくある質問
バス停の乗降客数を無料で調べる方法はありますか?
全国横断で取れる公的なデータはありません。国土数値情報「バス停留所」(P11)の属性は地点・バス停名・バス事業者名・バス系統・バス区分コード・備考の6つで、乗降客数は含まれていません。GTFS-JPの仕様書(第4.0版・全170ページ)を全文検索しても、「乗降人員」「乗降客数」「利用者数」「輸送人員」「乗車人員」はいずれも0件でした。個別の自治体が公共交通計画の資料編でPDF公表している例はありますが、調査年度も様式もばらばらです。
駅の乗降客数は取れるのに、なぜバス停は取れないのですか?
国が受け取っている報告に項目が無いためです。乗合バスの輸送実績は運行系統(路線)単位で報告される仕組みで、停留所別の乗降人員という欄がありません。国の統計も都道府県単位までの公表です。一方、鉄道の駅については国土数値情報S12「駅別乗降客数」が鉄道事業者提供資料をもとに整備されており、令和6年度(2024年度)版まで公開されています。
バス停データはどこからダウンロードできますか?
国土交通省の国土数値情報ダウンロードサイトで、識別子P11「バス停留所」として公開されています。最新は令和4年度版(作成時点:概ね令和4年8月)です。運行の時刻や本数まで必要な場合は、各事業者のGTFS-JPデータを使います。集約先としては一般社団法人日本バス情報協会のGTFSデータリポジトリ(gtfs-data.jp)があり、2026年8月18日時点で407事業者・490フィードが登録されていました。認証は不要です。
バス停データは商用利用できますか?
版によって条件が異なります。国土数値情報「バス停留所」の使用許諾条件は、公式ページに「平成22年度:非商用」「令和4年度:『国土数値情報ダウンロードサイトコンテンツ利用規約』に基づく(オープンデータ)」と併記されています。検索から古い版のページに着地すると「非商用」の記述だけが見えるため、必ず令和4年度版であることを確認してください。GTFSデータのライセンスは事業者ごとに設定されているので、フィード単位で確認が必要です。
「標準的なバス情報フォーマット」を探しても最新版が見つかりません
名称が変わっています。現在の正式名称は「公共交通運行情報標準データ仕様(GTFS-JP)第4.0版」(令和8年3月・国土交通省総合政策局)です。対象がバスだけでなく鉄道や旅客船などにも広がったことに伴う改称で、旧称は仕様書本文にもほとんど残っていません。
バス事業者にデータを公開する義務はありますか?
データとしての公開は努力義務です。地域公共交通の活性化及び再生に関する法律 第四条第4項が「公共交通事業者等は、自らが提供する旅客の運送に関するサービスの質の向上並びに地域公共交通の利用を容易にするための情報の提供及びその充実に努めなければならない」と定めています。ただし別に義務があり、旅客自動車運送事業運輸規則 第五条第3項・第4項は、路線定期運行の事業者に対し停留所の名称・運行系統・発車時刻等を停留所に掲示するとともにウェブサイトへの掲載等により公示することを求めています(従業員20人以下の場合と自社ウェブサイトを持たない場合を除く)。人が読む形での公開は義務、機械可読な形での公開は努力義務、という整理になります。
P11のデータで「候補地から半径300m以内のバス停の数」を数えても大丈夫ですか?
重複の確認をしてから数えてください。令和4年度版の作成方法は「原則として同一道路上にある同一事業者かつ同一名称のバス停留所は統合した」とされており、裏を返すと同じ場所でも事業者が違えば別レコードとして残ります。名称と座標で重複を確認しないと、乗り入れ事業者の多い停留所ほど数が水増しされます。
コミュニティバスも含まれていますか?
含まれます。P11の対象は民間路線バス・公営路線バス・コミュニティバスの3区分で、バス区分コードで判別できます。コミュニティバスの事業者名の欄には自治体名が入ります。一方、高速バス・貸切バス・無料シャトルは対象外です。