出店候補地を検討していると、「駅の乗降客数」「学校の位置」「用途地域」「地価」といったデータを地図の上で重ねたくなります。それらの多くは、国土交通省が国土数値情報ダウンロードサイトで無償公開しています。名前は聞いたことがあっても、136本ものデータ詳細ページが並ぶ画面を前にして、どこから手をつければいいのか分からない——というのがよくある状態です。
この記事では、国土数値情報とは何なのか、商圏分析で実際に効くデータはどれか、そして使う前に必ず確認しなければいけない1点を、サイトの実際の記述をもとに整理します。商圏分析の全体像から確認したい方は商圏分析のやり方 完全ガイドを先にご覧ください。
- 国土数値情報は、地形・土地利用・公共施設・交通・災害リスク情報・都市計画・地価などをGISデータとして無償提供する国土交通省のサイト
- 利用規約は2026年3月23日に改まり、原則として「公共データ利用規約(第1.0版)」(PDL1.0)が適用される
- ただしデータごとに使用許諾条件が違う。「オープンデータ(CC BY 4.0)」のものと「非商用」のものが混在している
- しかも同じデータでも版によって条件が変わる。駅別乗降客数は、2021年度版のページが「非商用」、2024年度版のページが「オープンデータ(CC_BY_4.0)」だった(2026年8月21日時点で実際に両ページを確認)
- サイト自身が「旧版では使用許諾条件が異なることがありますので、必ず使用する版の使用許諾条件をご確認ください」と注意書きを出している
国土数値情報とは
国土数値情報ダウンロードサイトは、自らの役割をトップページで次のように説明しています(原文のまま)。
ポイントは3つあります。1つ目はGISデータであること。表計算ソフトで開く数表ではなく、位置情報を持った地図データ(シェープファイル、XML、GeoJSON)として配られます。2つ目は無償であること。会員登録も課金もありません。3つ目は国土に関する基礎的な情報であること。売上や消費といった経済統計そのものではなく、その手前にある「どこに何があるか」を押さえるデータ群です。
同じサイトの中に、住所と緯度経度を対応づける位置参照情報と、土地分類調査・水調査の成果を配る国土調査も同居しています。住所リストを地図に載せたい場合は位置参照情報のほうを使います(住所を緯度経度に一括変換する方法で扱っています)。
どんなデータがあるのか
データ一覧ページに並ぶ「データ詳細」ページを機械的に数えたところ、136本ありました(2026年8月21日時点)。各データには S12(駅別乗降客数)や L01(地価公示)のような識別子が付いており、先頭のアルファベットで系統が分かれています。実際の内訳は次のとおりです。
| 先頭記号 | 本数 | 入っているデータの例 |
|---|---|---|
| A | 57 | 洪水浸水想定区域、土砂災害警戒区域、DID人口集中地区、中学校区、森林地域、農業地域 |
| P | 31 | 学校、医療機関、福祉施設、文化施設、郵便局、市区町村役場、公共施設 |
| N | 12 | 鉄道、道路、行政区域、バスルート、緊急輸送道路、道路密度・道路延長メッシュ |
| L | 8 | 地価公示、都道府県地価調査、土地利用細分メッシュ、工業用地 |
| S | 7 | 駅別乗降客数、交通流動量 駅別乗降数、発生・集中量、OD量 |
| m | 7 | 1km/500m/250mメッシュ別将来推計人口 |
| G | 6 | 標高・傾斜度メッシュ、低位地帯、平年値(気候)メッシュ |
| C | 4 | 海岸線、空港、港湾、漁港 |
| W | 4 | 河川、湖沼、ダム、流域メッシュ |
災害リスク系(A)が最も厚く、次いで施設のポイントデータ(P)が並びます。商圏分析で毎回使うのは、このうちごく一部です。全部を眺めようとすると先に進めなくなるので、目的から逆に引くのが早道です。
商圏分析で実際に効く5つ
出店判断や商圏の把握という目的に絞ると、優先して押さえたいのは次の5つです。
| データ | 識別子 | 商圏分析での使いどころ |
|---|---|---|
| 駅別乗降客数 | S12 | 駅前立地の集客ポテンシャル。全国の鉄道事業者から収集した駅ごとの1日あたり乗降客数 |
| メッシュ別将来推計人口 | m系 | 250m/500m/1kmメッシュで将来人口を見る。10年後も商圏人口が維持されるかの確認 |
| DID人口集中地区 | A16 | 市街化の度合いを面で把握する。市区町村単位の人口密度より実態に近い |
| 地価公示・都道府県地価調査 | L01・L02 | 候補地の相場感。賃料交渉の前提として |
| 学校・医療機関・福祉施設 | P29・P04・P14 | ファミリー層・高齢層の分布を施設の位置から推し量る |
このうち駅別乗降客数については駅の乗降客数を無料で調べる方法で、将来推計人口については将来推計人口とは?市区町村別の調べ方で、それぞれ入手手順を扱っています。地価の相場を見る別の経路としては路線価の調べ方もあわせてご覧ください。
逆に、店舗数や事業所数は国土数値情報には入っていません。競合の軒数を数えるのは経済センサスの担当領域です(経済センサスの事業所数とは?)。人口そのものも、国土数値情報にあるのは推計値とメッシュ集計で、実測の人口は国勢調査や住民基本台帳が一次資料になります。
使用許諾条件は「データごと」かつ「版ごと」
ここが本記事でいちばんお伝えしたい部分です。国土数値情報は「国のデータだから自由に使える」と一括りにできません。
まず、サイト全体の利用規約が2026年3月に変わった
利用規約ページには附則として「本利用規約は、2026年(令和8年)3月23日から施行します」と書かれています。現在の原則は、権利表記の記載がない限り「公共データ利用規約(第1.0版)」(PDL1.0)が適用される、という組み立てです。
そのうえで、規約はこの原則が適用されないコンテンツを3つ挙げています。
- 利用許諾条件が「オープンデータ(CC BY 4.0)一部制限」であるデータ … 個別ページの「このデータの使用許諾条件」欄に別の利用規約等に準拠する旨が書かれている場合は、そちらに従う
- 利用許諾条件が「商用可」あるいは「非商用」であるデータ … 国土数値情報ダウンロードサービスコンテンツ利用規約(旧国土情報利用約款準拠版)に従う
- 利用許諾条件の記載がないデータ … 同上
つまり「非商用」と書かれたデータが実在するということです。商用の出店検討で使うなら、この欄を必ず見る必要があります。
次に、同じデータでも版によって条件が違う
データ一覧ページには、次の注意書きが掲げられています(原文のまま)。
これは抽象的な注意ではなく、実際に起きています。駅別乗降客数(S12)で確認しました。
| ページ | データの年度 | このデータの使用許諾条件 |
|---|---|---|
| 製品仕様書 第3.1版のページ | 2021年度(令和3年度) | 非商用 |
| データ基準年度 2024年度版のページ | 2024年度(令和6年度) | オープンデータ(CC_BY_4.0) |
同じ「駅別乗降客数データ」という名前で、片方は商用利用ができず、片方はCC BY 4.0です。2024年度版のページ(2026年4月更新)のHTMLを見ると、かつての「本データは原典資料を収集する際の取り決めにより、商用利用はできません」という一文はコメントアウトされて非表示になっており、表示されている値は「オープンデータ(CC_BY_4.0)」でした。
検索で上位に出てくるのが古い版のページだと、「駅別乗降客数は商用利用できない」という結論だけを持ち帰ってしまいます。データ名で検索して最初に開いたページの条件を、そのデータ全体の条件だと思わないこと。これが実務上いちばん効く注意点です。
出典の書き方
PDL1.0が適用されるコンテンツには、出典の記載が求められます。利用規約は記載例まで示しています(原文のまま)。
編集・加工した場合は、これとは別に利用したコンテンツの名称と、編集・加工等を行ったことを書きます。こちらの記載例も示されています。
あわせて「編集・加工した情報を、あたかも国が作成したかのような態様で公表・利用してはいけません」とも明記されています。社内資料であっても、加工した数値を「国土交通省のデータ」とだけ書いて回すのは避けたほうが無難です。加工した旨を1行添えるだけで済みます。
個別法令による制約があるデータ
使用許諾条件とは別に、個別の法令で制約がかかるデータがあります。利用規約が名指ししているのは、国土調査系の成果です。
20万分の1土地分類基本調査、土地保全基本調査、5万分1都道府県土地分類基本調査、土地履歴調査、主要水系調査などは、背景図として国土地理院の基本測量成果を使用しているため、規約は次のように述べています。
提案書や店舗開発の資料に地図を貼り込む場面が想定されるなら、この一文は押さえておく価値があります。国土数値情報のポイントデータやポリゴンデータを自前の地図に重ねる分には関係しませんが、国土調査の成果図そのものを複製する場合は別の手続きが要る、という切り分けです。
Webマッピングシステムの地図表示画面で使われている地図についても、地理院タイルの利用ルールに適合した利用が求められています。
国土数値情報でできないこと
最後に、期待しすぎないための線引きです。国土数値情報は「どこに何があるか」を面と点で押さえるデータであって、次のものは入っていません。
| 欲しいもの | 国土数値情報での扱い | 一次資料 |
|---|---|---|
| 商圏内の人口(実測) | 推計人口とメッシュ集計はあるが実測はない | 国勢調査・住民基本台帳 |
| 競合の店舗数 | 収録なし | 経済センサス |
| 世帯の消費支出 | 収録なし | 家計調査 |
| 歩行者の通行量 | 収録なし(自動車の交通量は道路交通センサス) | 自治体の通行量調査 |
| 徒歩圏・車到達圏の形 | 道路データはあるが到達圏の計算は自前 | ルーティング計算 |
また、GISデータであるがゆえにそのままでは開けないという壁もあります。シェープファイルを扱うにはQGISのようなGISソフトが必要で、サイト側もQGISの活用マニュアルを用意しているほどです。到達圏の計算まで自前でやるとなると、道路ネットワークの前処理が必要になります。市場規模の出し方については家計調査とは?商圏の市場規模の出し方もあわせてご覧ください。
国土数値情報は無償のGISデータ群ですが、「国のデータだから自由に使える」わけではありません。使用許諾条件はデータごとに違い、しかも同じデータでも版によって変わります。2026年3月23日施行の利用規約はPDL1.0を原則としつつ、「非商用」のデータが別ルールで残ることを明記しています。使う版のページで「このデータの使用許諾条件」欄を必ず確認してください。
よくある質問
国土数値情報は無料ですか?
無料です。サイトは「国土に関する基礎的な情報をGISデータとして整備し、無償で提供しています」と説明しており、会員登録や課金の仕組みはありません。ただし無償であることと、商用利用が自由であることは別の話です。データごとの使用許諾条件を確認してください。
国土数値情報を商用利用できますか?
データによります。2026年3月23日施行の利用規約は、権利表記がない限り「公共データ利用規約(第1.0版)」(PDL1.0)が適用されるとしていますが、同時に「利用許諾条件が『商用可』あるいは『非商用』であるデータ」は別の規約に従うと明記しています。つまり非商用のデータが実在します。各データの詳細ページにある「このデータの使用許諾条件」欄を、使う版のページで確認するのが唯一確実な方法です。
駅別乗降客数は商用利用できますか?
版によります。2026年8月21日に確認したところ、製品仕様書第3.1版(2021年度データ)のページは「非商用」、データ基準年度2024年度版のページは「オープンデータ(CC_BY_4.0)」と表示されていました。最新版を使うのであればCC BY 4.0の条件(出典表示・改変した旨の明示)に従うことになります。古い版を使う場合はそのページの条件に従ってください。
どうやってダウンロードするのですか?
データ一覧から目的のデータの詳細ページを開き、内容・データ基準年度・座標系・使用許諾条件を確認したうえで、ダウンロードに進みます。形式はシェープファイル、XML、GeoJSONが用意されています。都道府県単位や全国単位で分割されているデータが多いため、必要な範囲だけ落とすと扱いが楽になります。
ダウンロードしたファイルは何で開けますか?
GISソフトが必要です。シェープファイルやGeoJSONは表計算ソフトでは開けません。サイト側がQGISの活用マニュアルを公開しているので、無償で始めるならQGISが現実的な選択肢になります。位置と属性を見るだけであれば、サイトのウェブマッピングシステムでブラウザ上から確認することもできます。
出典はどう書けばよいですか?
利用規約が記載例を示しています。基本形は「出典:国土交通省国土数値情報ダウンロードサイト(当該ページのURL)」です。編集・加工した場合は、これとは別に「『国土数値情報(○○データ)』(国土交通省)(当該ページのURL)をもとに○○株式会社作成」のように、利用したコンテンツ名と加工した旨を書きます。加工した情報を国が作成したかのように見せることは禁じられています。
国勢調査のメッシュ人口も国土数値情報にありますか?
国土数値情報にあるのは将来推計人口のメッシュデータ(250m/500m/1km)です。国勢調査の実測値のメッシュ集計は、政府統計の総合窓口(e-Stat)側から取得します。手順は別記事で扱っています。