候補地を2か所に絞ったあと、「どちらのほうが立地として強いのか」を数字で説明したい場面が出てきます。人口も競合数も出したうえで、もう一段の裏づけが欲しい。そこで名前が挙がるのが路線価です。
路線価は無料で、住所から道路単位で引けて、毎年更新されます。商圏の資料に載せる数字としては扱いやすいものです。ただし路線価はもともと相続税と贈与税のために作られた数字で、出店判断のために作られたものではありません。国税庁は適用範囲を明記していて、そこを踏まえずに使うと2つの点で読み違えます。水準と、空白です。
この記事では、路線価図の記号の読み方から始めて、公示地価の8割という水準の話、郊外で路線価が存在しない「倍率地域」という空白、そして出店資料に図を貼るときの制約までを、国税庁と国土交通省の原文で整理します。商圏分析全体の流れは商圏分析のやり方 完全ガイドにまとめています。
路線価は相対比較の物差しとしてなら十分使えます。同じ年分の路線価どうしで候補地を比べるぶんには、無料で、道路単位で、毎年更新される公的データはほかにありません。使ってはいけないのは絶対値としての扱いと、種類をまたいだ比較です。相続税路線価は公示地価の8割程度、固定資産税評価額は7割程度と水準が違うため、混ぜると立地の優劣を取り違えます。さらに郊外のロードサイドはそもそも路線価が設定されていない「倍率地域」であることが多く、路線価ベースの比較表は市街地でしか成立しません。
- 入口は国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」。令和8年分が最新で、平成30年分まで9年分を無料で閲覧できる
- 路線価は1平方メートル当たりの価額を千円単位で表示。「215D」なら1平方メートル215,000円で、Dは借地権割合60%を指す
- 水準は公示地価の8割程度(国税庁の明文)。固定資産税評価額は7割程度(国土交通省の一覧)。同じ「路線価」の語でも別物
- 路線価が定められていない地域は倍率地域。国税庁は「市街地的形態を形成する地域」を路線価地域とし、それ以外を倍率地域としている
- 路線価地域には7つの地区区分(ビル街地区・高度商業地区・繁華街地区ほか)があり、これは全国一律の商業性のラベルとして読める
- 更新の速さが違う。相続税路線価は毎年1月1日時点・7月公表、固定資産税評価は3年に1度の評価替え
- 路線価図の背景地図はゼンリンの地図。商用目的で二次利用する場合は事前に照会が必要と国税庁が案内している
入口は国税庁の財産評価基準書
相続税路線価の公式の入口は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」です。会員登録もログインも不要で、都道府県から市区町村、地図番号へと降りていくとPDFの路線価図が開きます。
年分は令和8年分が最新で、平成30年分までさかのぼれます。当編集部がトップページのタブを実際に数えたところ、令和8年分・令和7年分・令和6年分・令和5年分・令和4年分・令和3年分・令和2年分・令和元年分・平成30年分の9年分が並んでいました。同じ道路の9年分を並べれば、その通りが伸びているのか落ちているのかが見えます。
まず確認しておきたいのが、この基準が何のためのものかという点です。各年分のページの冒頭に、適用範囲が書かれています。
「この財産評価基準は、令和8年1月1日から12月31日までの間に相続、遺贈又は贈与により取得した財産に係る相続税及び贈与税の財産を評価する場合に適用します。」
つまり、この数字は相続税と贈与税の財産評価のために定められています。出店判断に使ってはいけないと禁じる記述は見当たりませんでしたが、その用途を想定して作られていないことは押さえておく必要があります。国税庁が路線価等を定めている理由も、報道発表に説明があります。
「相続税等の申告の便宜及び課税の公平を図る観点から、国税局(所)では毎年、全国の民有地について、土地等の評価額の基準となる路線価及び評価倍率(以下「路線価等」といいます。)を定めて公開しています。」
納税者が自分で時価を調べるのは難しいので、国が代わりに基準を用意している、という建て付けです。副産物として、全国の道路に価格のラベルが付いたデータが毎年公開されている、と理解すると位置づけを誤りません。
路線価図の読み方。数字と記号
路線価図を初めて開くと、道路の上に「215D」のような文字列が並んでいます。読み方は国税庁の「路線価図の説明」に書かれています。
「路線価は、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額(千円単位で表示しています。)のことであり、路線価が定められている地域の土地等を評価する場合に用います。」
単位が千円である点が最初の落とし穴です。「215」は215円でも215万円でもなく、215,000円です。右隣のアルファベットは借地権割合を表します。
「例として「215D」と記載されている場合は、1平方メートル当たりの路線価が215,000円で、借地権割合が60%であることを示しています。」
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
借地権割合は相続税の計算に使う数字ですが、出店の文脈でも読み取れることがあります。国税庁がその路線について、土地の価値のうち借りている側に帰属する割合をどう見ているかの目安になるためです。一般に商業性が高い路線ほど割合が高く設定されます。
もうひとつ、実際の数字の桁感をつかむために、公表されている最高路線価を見ておきます。国税庁は毎年、都道府県庁所在都市の最高路線価を公表しています。令和8年分の上位と下位を並べると次のとおりです。
| 都市 | 所在地 | 令和8年分(千円/平方メートル) | 対前年変動率 |
|---|---|---|---|
| 東京 | 中央区銀座5丁目 銀座中央通り | 53,360 | +11.0% |
| 大阪 | 北区角田町 御堂筋 | 21,200 | +1.5% |
| 横浜 | 西区南幸1丁目 横浜駅西口バスターミナル前通り | 17,600 | +2.3% |
| さいたま | 大宮区桜木町2丁目 大宮駅西口駅前ロータリー | 6,660 | +12.5% |
| 佐賀 | 駅前中央1丁目 駅前中央通り | 275 | +17.0% |
| 鳥取 | 栄町 若桜街道通り | 91 | 0.0% |
銀座と鳥取で1平方メートル当たり約586倍の開きがあります。注目したいのは変動率のほうで、絶対額が小さい都市でも伸び率は大きいことがあるという点です。佐賀の+17.0%は、この表のどの大都市よりも高い伸びです。候補地の勢いを見るなら、額そのものより前年比を見るほうが情報量があります。ドミナント戦略のように同一エリアに複数店を置く判断でも、伸びている通りかどうかは効いてきます。
4種類の公的な地価を混ぜない
ここが実務でいちばん事故が起きるところです。日本の公的な土地の価格は4種類あり、それぞれ実施機関も価格時点も水準も違います。国土交通省の「主な公的土地評価一覧」から要点を並べます。
| 種類 | 実施機関 | 価格時点と公表 | 水準 |
|---|---|---|---|
| 地価公示 | 国土交通省土地鑑定委員会 | 毎年1月1日時点(3月公表) | 基準となる価格 |
| 都道府県地価調査 | 都道府県知事 | 毎年7月1日時点(9月公表) | 地価公示と相互に補完 |
| 相続税評価(相続税路線価) | 国税庁・国税局長 | 毎年1月1日時点(7月公表) | 「平成4年以降は地価公示の水準の8割程度」 |
| 固定資産税評価(固定資産税評価額) | 総務省・市町村長 | 1月1日時点(3年に1度評価替) | 「平成6年以降は地価公示の水準の7割程度」 |
ここから2つのことが言えます。
ひとつは、種類が違う数字を並べて優劣を判断してはいけないということです。A候補地の相続税路線価とB候補地の固定資産税路線価を比べると、同じ価値の土地でもAのほうが約1.14倍高く見えます(8割と7割の比)。全国地価マップのように複数種類が同じ画面で見られるサイトを使う場合ほど、この取り違えが起きやすくなります。
もうひとつは、鮮度が違うということです。相続税路線価は毎年更新されますが、固定資産税評価額は3年に1度の評価替えです。エリアの勢いを追う目的なら、毎年更新される相続税路線価か地価公示・地価調査を使うのが筋です。
4種類をまとめて地図上で見たい場合は、一般財団法人資産評価システム研究センターの「全国地価マップ」があります。同サイトの説明は次のとおりです。
「この「全国地価マップ」では、お住まいの地域の次の4つの公的土地評価情報がご覧いただけます。/1.固定資産税路線価等 2.相続税路線価等 3.地価公示価格 4.都道府県地価調査価格」
4種類が1画面にそろうのは便利ですが、便利さの裏返しとして混同しやすい構成でもあります。どのレイヤを表示しているのかを毎回確認するのが実務上のコツです。
倍率地域という空白
郊外のロードサイド候補地で路線価を引こうとして、地図に「倍率地域」とだけ書かれていた、という経験をされた方は多いと思います。これは不備ではなく、設計上そうなっています。
「なお、路線価が定められていない地域については、その市区町村の「評価倍率表」をご覧ください。」
そのような地域では、路線ごとの価格ではなく倍率方式で評価します。
「倍率方式では、その土地の固定資産税評価額に地価事情の類似する地域ごとに定めた評価倍率を乗じて評価額を算出します。」
どこを路線価地域にして、どこを倍率地域にするかの考え方も公表されています。
「原則として、市街地的形態を形成する地域については、路線ごとに地価変動が異なる蓋然性があることから「路線価地域」とし、それ以外の地域については、そのような蓋然性がないことから「倍率地域」としています。」
裏を返すと、倍率地域とは「道路ごとに地価が変わるほどの差がないと国が判断した地域」です。ここが出店の文脈では重要になります。市街地の路面店では「この通りとあの通りで違う」が成り立ちますが、倍率地域では路線単位の差そのものが想定されていません。ロードサイドの候補地を路線価で比較しようとしても、材料が存在しないのです。
この場合、比較の軸は交通量や到達性に移します。道路交通センサスの自動車交通量や、通行量調査の考え方、あるいは商圏人口の調べ方で扱った到達圏内の人口のほうが、倍率地域では判断材料として機能します。
なお、倍率地域でも土地の価格の目安がまったく取れないわけではありません。評価倍率表には固定資産税評価額に乗じる倍率が載っており、その市区町村の固定資産税評価額と組み合わせれば水準は出ます。ただし手間の割に精度が上がらないため、実務では地価公示・地価調査の最寄りの標準地を見るほうが早い場面が多くなります。
7つの地区区分が使える
路線価図には、価格のほかに「地区区分」という情報が載っています。国税庁の説明ではこう書かれています。
「地区区分では「ビル街地区」、「普通住宅地区」等の区分を示しています。また、地図部分に記されている記号の「黒塗り」「斜線」等によって、詳細が示されています。」
区分は7つあり、財産評価基本通達14-2に列挙されています。
「路線価方式により評価する地域(以下「路線価地域」という。)については、宅地の利用状況がおおむね同一と認められる一定の地域ごとに、国税局長が次に掲げる地区を定めるものとする。/(1)ビル街地区(2)高度商業地区(3)繁華街地区(4)普通商業・併用住宅地区(5)普通住宅地区(6)中小工場地区(7)大工場地区」
この7区分は、出店判断の材料として意外に使い勝手があります。理由は全国一律の基準で、道路単位で付いている商業性のラベルだからです。用途地域は法的な建築制限のための区分ですが(用途地域の調べ方)、地区区分は「実際にどう使われているか」を国税局が見て付けたものです。同じ商業地域の中でも「繁華街地区」と「普通商業・併用住宅地区」に分かれていれば、通りの性格が違うと読めます。
注意点は、これがあくまで宅地の評価のための区分であって、商業統計に基づく分類ではないことです。断定的な根拠にはせず、現地を見る前の当たりを付ける材料として使うのが適切です。競合の実数を押さえたい場合は経済センサスの事業所数のほうが直接的です。
出店資料に貼るときの制約
ここは見落とされやすい実務上の注意です。路線価図の画面をキャプチャして提案書や社内資料に貼る場合、国税庁自身が制約を案内しています。「路線価図の商用利用について」というページに、次のように書かれています。
「路線価図は路線価情報と背景地図により作成されています。路線価情報は国税庁が作成し、背景地図は株式会社ゼンリンの地図を基に国税庁が経年変化に伴う道路等の修正を行い作成しています。」
「路線価情報とともに背景地図を商用目的で二次利用する場合は事前に株式会社ゼンリンへお問合せください。」
つまり路線価の数字そのものと、その下に敷かれている地図とで権利の扱いが分かれています。数値を表に書き写して使うぶんには背景地図の話は出てきませんが、図をそのまま貼るときは背景地図まで一緒に複製することになります。商用の提案書に貼る予定があるなら、事前に確認しておくのが安全です。
もうひとつ、データの形式についても押さえておきます。路線価図はPDFで提供されており、国税庁のヘルプにも「路線価図等はPDF形式のファイルで作成されています。」とあります。当編集部が国税庁のサイトマップとリンク先の拡張子を機械的に確認した範囲では、CSVやAPIといった機械可読な形での配布経路は見当たりませんでした。まとまった件数を扱いたい場合は、地価公示・地価調査のデータが国土交通省の不動産情報ライブラリや国土数値情報から取得できるので、そちらに切り替えるほうが現実的です。
そして毎年の申告時期に効く注意として、国税庁は「正誤表」の確認を促しています。財産評価基準書のトップに「相続税等の申告に当たっては、「正誤表」を必ずご確認ください。」と常時表示されています。出店の検討で使う場合も、桁が1つ違うような数字に出会ったら正誤表を見る価値があります。
商圏分析の工程にどう挟むか
最後に、路線価をどの段階で見るかを整理します。結論としては候補地を数か所に絞ったあと、現地を見る前が適しています。人口や競合の段階では粒度が粗すぎ、契約直前では判断材料としては遅いためです。
| 段階 | 見るもの | 路線価の出番 |
|---|---|---|
| 1. エリアを選ぶ | 商圏人口、将来推計、昼間人口 | まだ不要 |
| 2. 候補地を数か所に絞る | 競合の分布、到達圏、交通量 | まだ不要 |
| 3. 候補地を比べる | 路線価の水準と前年比、地区区分 | ここで使う |
| 4. 現地を見る | 通りの向き、視認性、人の流れ | 3の当たりを確かめる |
| 5. 条件を詰める | 賃料、用途地域、届出の要否 | 賃料交渉の背景として |
3の段階でやることは3つです。①同じ年分の路線価で候補地を横並びにする ②各候補地の直近数年の推移を並べて、伸びているか落ちているかを見る ③地区区分を確認して、通りの性格が想定と合っているかを確かめる。この3つはいずれも無料で、その日のうちに終わります。
逆に、路線価から読み取ろうとしないほうがよいのが賃料の絶対額です。路線価は土地の評価額の基準であって、テナント賃料の相場ではありません。同じ路線価の通りでも、区画の形や建物のグレードで賃料は変わります。円商圏と実勢商圏のずれで扱ったのと同じ話で、地図の上の数字と現場の実態には常に幅があります。路線価は候補地に順位を付けるための道具であって、金額を決めるための道具ではないと割り切ると使いやすくなります。
よくある質問
路線価はどこで無料で見られますか。
国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で、登録不要・無料で閲覧できます。都道府県から市区町村、地図番号の順に降りるとPDFの路線価図が開きます。令和8年分が最新で、平成30年分まで9年分が掲載されています。
路線価の数字はそのままの円ですか。
千円単位です。国税庁は「路線価は、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額(千円単位で表示しています。)」と説明しています。「215D」なら1平方メートル当たり215,000円で、Dは借地権割合60%を表します。
路線価は実勢価格と同じですか。
違います。国税庁の公表資料には「路線価は、毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に評価しています。」とあります。実際の取引価格ではなく、公示地価をもとにした8割程度の水準です。
候補地に「倍率地域」と書かれていて路線価がありません。
市街地的形態を形成していない地域では、路線価を定めず倍率方式で評価するためです。国税庁は「原則として、市街地的形態を形成する地域については…「路線価地域」とし、それ以外の地域については…「倍率地域」としています。」と説明しています。この場合は交通量や到達圏人口など別の軸で比較してください。
相続税路線価と固定資産税路線価を並べて比べてよいですか。
水準が違うので、そのまま並べないでください。国土交通省の一覧では、相続税評価は「地価公示の水準の8割程度」、固定資産税評価は「7割程度」とされています。また固定資産税評価は3年に1度の評価替えのため、更新の速さも異なります。
路線価図を提案書に貼ってもよいですか。
背景地図の扱いに注意が必要です。国税庁は「路線価情報とともに背景地図を商用目的で二次利用する場合は事前に株式会社ゼンリンへお問合せください。」と案内しています。数値だけを表に書き写す形であれば、この論点は生じません。
路線価のデータをまとめてダウンロードできますか。
国税庁のヘルプには「路線価図等はPDF形式のファイルで作成されています。」とあり、当編集部がサイト内のリンクを確認した範囲ではCSVやAPIの配布経路は見当たりませんでした。件数をまとめて扱いたい場合は、地価公示・地価調査のデータを国土交通省の不動産情報ライブラリや国土数値情報から取得するほうが現実的です。