候補地の面積が分かっていても、そこに欲しい売場が入るかどうかは別の話です。敷地300平方メートルで建ぺい率60パーセントなら、1階の建築面積は180平方メートルまで。駐車場を前に取るなら、実際に使える売場はさらに小さくなります。
ところが「建ぺい率 調べ方」で出てくる説明の多くは、用途地域ごとの数値を表にして終わっています。実務でつまずくのはその先です。用途地域が分かっても数値は確定しないこと、そして容積率は前面道路の幅でもう一度絞られることの2つが抜けていると、候補地の見立てを外します。
この記事では建築基準法の条文をもとに、2つの数値がどういう順番で決まるのか、候補地について何を確認すればよいのかを整理します。商圏分析の全体像は商圏分析の完全ガイドをご覧ください。
建ぺい率も容積率も、法律が用途地域ごとに選べる数値を並べ、その中のどれを採るかを都市計画で定めるという二段構えです(第53条第1項・第52条第1項)。したがって用途地域を調べただけでは数値は出ません。さらに容積率には、前面道路の幅員が12メートル未満のときにかかるもう一本の上限があります(第52条第2項)。候補地を見るときは「用途地域 → 都市計画で定められた指定数値 → 前面道路の幅員」の順に確認するのが確実です。
- 建ぺい率=建築面積の敷地面積に対する割合(第53条第1項)、容積率=延べ面積の敷地面積に対する割合(第52条第1項)
- 上限の数値は法律が選択肢を列挙し、都市計画で1つを定める。用途地域だけでは確定しない
- 商業地域の建ぺい率だけは十分の八の一択(第53条第1項第4号)。選択肢が並んでいない
- 容積率は前面道路12メートル未満なら幅員×0.4または0.6でもう一度絞られる(第52条第2項)
- 角地・防火地域の緩和は十分の一ずつ、両方該当で十分の二(第53条第3項)。角地は特定行政庁の指定が前提
- 建ぺい率の制限がそもそも適用されない組み合わせもある(第53条第6項)
- 敷地が2以上の地域にまたがるときは面積による按分(第53条第2項・第52条第7項)
2つの数値は「何を何で割るか」が違う
定義は条文にそのまま書かれています。まず建ぺい率です。
次に容積率です。
割られる側の面積が違います。建ぺい率は建築面積=おおむね上から見たときの広がりで、容積率は延べ面積=各階の床面積の合計です。出店の見立てに引き直すと、建ぺい率が「1階にどれだけ広げられるか」、容積率が「上に何層ぶん積めるか」を決めます。
ロードサイドの平屋型店舗では、効いてくるのはほぼ建ぺい率です。駐車場が必要な業態では、そもそも敷地いっぱいに建てないため上限に当たらないこともあります。一方、駅前で小さな敷地に上へ積む計画なら、容積率が先に効きます。業態によってどちらが効くかが変わるので、両方を機械的に調べるより、自分の計画がどちらに当たるかを先に決めた方が早いです。
なお、建ぺい率の定義に「同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その建築面積の合計」と書かれている点は見落とされがちです。既存建物を残したまま増築する計画では、この合計で判定されます。
上限は法律と都市計画の二段構えで決まる
ここが実務でいちばん取り違えの多いところです。第53条第1項は用途地域ごとに区分を立てていますが、その多くは数値を1つに決めていません。たとえば第2号はこうです。
「十分の五、十分の六又は十分の八のうち」で選択肢を示し、「当該地域に関する都市計画において定められたもの」で1つに絞る構造です。つまり同じ準工業地域でも、都市が違えば50パーセントのところと80パーセントのところがあります。用途地域の名前だけを見て数値を当てにいくと外れます。
条文に並ぶ区分を建ぺい率について整理すると、次のようになります。
| 区分(第53条第1項) | 都市計画で選べる数値 |
|---|---|
| 第1号 第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域、田園住居地域、工業専用地域 | 十分の三、十分の四、十分の五、十分の六 |
| 第2号 第一種・第二種住居地域、準住居地域、準工業地域 | 十分の五、十分の六、十分の八 |
| 第3号 近隣商業地域 | 十分の六、十分の八 |
| 第4号 商業地域 | 十分の八(選択肢なし) |
| 第5号 工業地域 | 十分の五、十分の六 |
| 第6号 用途地域の指定のない区域 | 十分の三、十分の四、十分の五、十分の六、十分の七のうち特定行政庁が定めるもの |
この表で目を引くのは第4号の商業地域だけが単独の数値だということです。ほかの区分が「〜のうち都市計画において定められたもの」で終わるのに対し、商業地域は「十分の八」とだけ書かれています。商業地域の候補地については、建ぺい率は条文を読んだ時点で確定します。
第6号の「用途地域の指定のない区域」も性格が違います。ここだけは都市計画ではなく、特定行政庁が土地利用の状況等を考慮し当該区域を区分して都道府県都市計画審議会の議を経て定めると書かれています。決める主体も手続きも別なので、市街化調整区域や都市計画区域外の候補地を見るときは注意が要ります。区域そのものの扱いは市街化調整区域とは?出店できる場合とできない場合にまとめています。
容積率も同じ構造です。第52条第1項第3号は商業地域について「十分の二十、十分の三十、十分の四十、十分の五十、十分の六十、十分の七十、十分の八十、十分の九十、十分の百、十分の百十、十分の百二十又は十分の百三十のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの」としています。200パーセントから1300パーセントまで幅があるわけで、容積率については商業地域でも数値は都市計画を見ないと分かりません。
容積率は前面道路でもう一度絞られる
用途地域の指定数値まで調べて安心しがちですが、容積率にはもう一本の上限があります。
乗じる数値は区分ごとに決まっています。
| 区分(第52条第2項) | 前面道路の幅員に乗じる数値 |
|---|---|
| 第1号 第一種・第二種低層住居専用地域、田園住居地域 | 十分の四 |
| 第2号 第一種・第二種中高層住居専用地域、第一種・第二種住居地域、準住居地域 | 十分の四(特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内では十分の六) |
| 第3号 その他の建築物 | 十分の六(同じく指定する区域内では十分の四または十分の八のうち特定行政庁が定めるもの) |
読み方の要点は3つあります。
- 12メートル以上の道路に面していれば、この項はかからない。条文が「幅員が十二メートル未満である建築物」を対象にしているためです
- 複数の道路に面していれば、最大の幅員で判定する。「前面道路が二以上あるときは、その幅員の最大のもの」と括弧書きで明示されています。角地が有利になるのはここにも理由があります
- 第1項の数値と第2項の数値の両方を満たす必要がある。第2項が「前項に定めるもののほか」で始まっているとおり、片方を選べるという関係ではありません
幅員6メートルの道路に面した近隣商業地域の敷地なら、第3号により6×0.6=360パーセントが第2項側の上限になります。都市計画の指定容積率が400パーセントでも、使えるのは360パーセントまでです。指定容積率をそのまま前提に置いた事業計画は、ここで崩れます。
前面道路の幅員は、候補地を見に行けば見当がつくように思えますが、実際の舗装幅と法律上の道路幅員は一致しないことがあります。都市計画道路の計画線がかかっている場合は将来の幅員も関わるため、都市計画道路とは?出店予定地にかかると何が起きるもあわせてご確認ください。
角地と防火地域の緩和は「十分の一」単位
建ぺい率には加算の規定があります。第53条第3項です。
第1号が防火地域・準防火地域と建築物の性能に関する要件、第2号が角地です。第2号の書き方を正確に見ておきます。
「特定行政庁が指定するもの」という条件が付いています。街区の角にあれば自動的に10パーセント加算される、という規定ではありません。指定の基準(交差する道路の幅員や角度、隅切りの有無など)は特定行政庁が定めるため、候補地が該当するかどうかは建築指導部門で確認する必要があります。
第1号の方は、防火地域内にある耐火建築物等、または準防火地域内にある耐火建築物等・準耐火建築物等が対象です。ただし括弧書きで「第一項第二号から第四号までの規定により建蔽率の限度が十分の八とされている地域を除く」とあります。もともと80パーセントの地域では、この加算は働きません。
そして、もう一段上の扱いが第6項にあります。第6項第1号は、防火地域(第1項第2号から第4号までの規定により建ぺい率の限度が十分の八とされている地域に限る)内にある耐火建築物等について、前各項の規定を適用しないとしています。加算ではなく、建ぺい率の制限そのものが外れる形です。
敷地が地域をまたぐときは面積で按分する
候補地が用途地域の境界にかかっているケースは珍しくありません。このときの扱いも条文にあります。建ぺい率は第53条第2項です。
容積率も同じ考え方で、第52条第7項が「第一項及び第二項の規定による当該各地域、地区又は区域内の建築物の容積率の限度にその敷地の当該地域、地区又は区域内にある各部分の面積の敷地面積に対する割合を乗じて得たものの合計以下でなければならない」と定めています。
敷地の6割が建ぺい率60パーセントの地域、4割が80パーセントの地域にかかっていれば、0.6×0.6+0.8×0.4=0.68で、敷地全体としては68パーセントが上限になります。厳しい方が全体にかかるのでも、広い方の地域の数値を使えるのでもありません。境界にかかる候補地では、どちらの地域にどれだけ入っているかで結果が変わります。
境界の位置は自治体の都市計画図で確認します。用途地域の調べ方は用途地域の調べ方。無料で確認する3経路にまとめました。
候補地を見るときに確認する順番
ここまでを実務の順番に並べ直すと、こうなります。
- 用途地域を特定する。第53条第1項・第52条第1項のどの号に当たるかがここで決まります
- その地域に関する都市計画で定められた指定数値を確認する。条文の選択肢のうちどれが採られているかは自治体の都市計画図・都市計画情報で確認します。商業地域の建ぺい率だけは条文で確定します
- 前面道路の幅員を確認する。12メートル未満なら第52条第2項の計算をして、指定容積率と比べて小さい方が上限です
- 加算・適用除外に当たるかを確認する。防火地域・準防火地域の指定、角地の指定の有無(第53条第3項・第6項)
- 敷地が地域をまたいでいないかを確認する。またいでいれば面積按分(第53条第2項・第52条第7項)
1と2はセットで、どちらか片方だけでは数値になりません。「用途地域=建ぺい率の数値」という対応表は、条文の構造とずれています。表はあくまで選択肢の一覧として使い、実際の数値は候補地の都市計画情報で押さえてください。
この2つの数値が出れば、候補地に入る建築面積と延べ面積の上限が計算できます。そこから駐車台数や売場面積の見立てに進むことになりますが、駐車場は別の規制が重なります。駐車場の附置義務とは?出店で必要な台数の調べ方と、規模が大きい場合の大規模小売店舗立地法とは?届出が必要な規模も並行して見ることになります。造成を伴う計画なら開発許可とは?出店前に調べる区域と規模の手続きが先に立ちます。用途地域の上に重ねて指定される特別用途地区がある区域では、条例で制限が加わることもあります。
候補地ごとの数字を整理する段階に入ったら、出店計画書の書き方の項目立てに沿ってまとめておくと、社内の比較が進めやすくなります。
よくある質問
建ぺい率と容積率は何の割合ですか。
建築基準法第53条第1項は建ぺい率を「建築物の建築面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その建築面積の合計)の敷地面積に対する割合」と定義しています。第52条第1項は容積率を「建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合」と定義しています。建ぺい率が敷地をどれだけ覆えるか、容積率が床を何層ぶん積めるかにあたります。
建ぺい率の上限はどこで決まっていますか。
法律が用途地域ごとに選べる数値を列挙し、その中のどれを採るかを都市計画で定める、という二段構えです。たとえば第53条第1項第2号は第一種住居地域・第二種住居地域・準住居地域・準工業地域について「十分の五、十分の六又は十分の八のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの」としています。用途地域が分かっただけでは数値は確定せず、その地域に関する都市計画で定められた値を確認する必要があります。
商業地域の建ぺい率はいくつですか。
建築基準法第53条第1項第4号は商業地域内の建築物について「十分の八」とだけ定めています。ほかの区分と違って選択肢が並んでおらず、都市計画で選ぶ余地がありません。商業地域だけは条文を読んだ時点で数値が確定します。
容積率は用途地域の数値だけで決まりますか。
決まりません。第52条第2項は、前面道路(二以上あるときは幅員の最大のもの)の幅員が12メートル未満である建築物について、その幅員のメートルの数値に、区分に応じた数値を乗じたもの以下でなければならないと定めています。低層住居専用地域等は十分の四、第一種・第二種中高層住居専用地域や第一種・第二種住居地域・準住居地域は十分の四(特定行政庁が指定する区域内では十分の六)、その他の建築物は十分の六(同じく指定区域内では十分の四または十分の八)です。第1項の数値と第2項の数値の両方を満たす必要があります。
角地だと建ぺい率が上がると聞きました。
第53条第3項に規定があります。防火地域内にある耐火建築物等(建ぺい率の限度が十分の八とされている地域を除く)または準防火地域内にある耐火建築物等・準耐火建築物等が第1号、街区の角にある敷地またはこれに準ずる敷地で特定行政庁が指定するものの内にある建築物が第2号で、どちらかに当たれば十分の一を加え、両方に当たれば十分の二を加えます。第2号は「特定行政庁が指定するもの」なので、角地であれば自動的に該当するわけではありません。
敷地が2つの用途地域にまたがる場合はどうなりますか。
面積による按分です。建ぺい率は第53条第2項、容積率は第52条第7項が、それぞれ各地域内の限度に、敷地のうちその地域内にある各部分の面積の敷地面積に対する割合を乗じて得たものの合計以下でなければならないと定めています。厳しい側の数値がそのまま全体にかかるのでも、有利な側を選べるのでもありません。