出店の検討で人口や所得を調べようとすると、たいてい最初に行き着くのが政府統計の総合窓口(e-Stat)です。ところが e-Stat は統計の「倉庫」なので、目当ての表にたどり着くまでに調査名・年次・表番号を選ぶ必要があり、慣れていないと10分で心が折れます。

その手前に、総務省統計局が別のサイトを用意しています。統計ダッシュボードです。こちらは最初からグラフになっていて、地域を選べばすぐ数字が出ます。ただし、商圏分析に使おうとするとある一点で必ず行き止まりになります。この記事では、統計ダッシュボードで何ができて、どこで別の手段に切り替えるべきかを、公式の記述と実際にAPIを叩いた結果で確かめていきます。商圏分析の全体像から確認したい方は商圏分析のやり方 完全ガイドを先にご覧ください。

結論

統計ダッシュボードは、総務省統計局が主要統計をグラフに加工して一覧できるようにしたサイトです。2017年5月から公開されていて、約6,000のデータ系列を利用登録なしで画面からもAPIからも使えます。ただし地域の最小単位は市区町村で、町丁目やメッシュは扱えません。半径数kmの商圏を数えるには粗すぎるため、市場の全体像をつかむところまでが守備範囲です。

この記事の要点
  • 公式の定義は「主要な統計データをグラフ等に加工して一覧表示し、視覚的に分かりやすく、簡単に利用できる形で提供するシステム」。収録は約6,000のデータ系列
  • APIは利用登録不要。e-Stat のAPIはユーザ登録とアプリケーションIDが必要なので、ここが最も大きい実務上の違い
  • API仕様に地域階級は国・全国(日本)・都道府県・市区町村の4つと明記されている。町丁目もメッシュも存在しない
  • さらに、市区町村の粒度を持つ系列は5,822系列中1,126系列(約19%)だけ。「市区町村まで見られる」は全系列についてではない(実測)
  • 二次利用は公共データ利用規約(第1.0版)。e-Stat本体の政府標準利用規約とは別の規約なので、出典の文言も書き分ける

統計ダッシュボードとは何か

運営しているのは総務省統計局です。公開は2017年(平成29年)5月12日で、総務省の報道資料は「今般、統計データの利活用を更に推進するため、使いやすい統計データを提供する取組の一環として「統計ダッシュボード」を開発し、本日から提供を開始いたします。」と告知しています。サイトの「統計ダッシュボードとは」のページは、自らをこう定義しています。

「国や民間企業等が提供している主要な統計データをグラフ等に加工して一覧表示し、視覚的に分かりやすく、簡単に利用できる形で提供するシステムです。」

ここで効いているのはグラフ等に加工してという部分です。統計の原表を配るのではなく、加工した状態で見せることを目的にしたサイトだ、と自分で書いています。同じページには収録量の記載もあり、「収録されている約6,000のデータ系列」とされています。API仕様のページも「約6,000の系列を保持しており、各系列は「時間」軸、「地域」軸を持ちます。」と同じ数を書いています。

数字が食い違っている点:統計局の別ページ(Data StaRt データ・スタート)には「収録されている約5,000のデータ系列」という記述が残っています。約5,000は2017年の提供開始時点の数で、報道資料も「約5000の統計データを、「人口・世帯」や「労働・賃金」など17の分野に整理して収録して」いると書いていました。現行の統計ダッシュボード本体の記載は約6,000です。引用するときは、どのページの何年時点の記載かを添えてください。

トップページには分野の入口が並んでいます。2026年8月17日時点で確認できたのは次の17分野です。

分野(画面上の表記)
国土・気象/人口・世帯/労働・賃金/農林水産業/鉱工業/商業・サービス業/企業・家計・経済/住宅・土地・建設/エネルギー・水/運輸・観光/情報通信・科学技術/教育・文化・スポーツ・生活/行財政/司法・安全・環境/社会保障・衛生/国際/その他

出店の検討で触ることが多いのは、人口・世帯、労働・賃金、企業・家計・経済、商業・サービス業のあたりです。所得の相場を市区町村単位で見たいときは市区町村別の平均所得を無料で調べる方法、人口の先行きを見たいときは将来推計人口とは?市区町村別の調べ方と組み合わせると、同じ画面の中で話が完結します。

出典:総務省統計局「統計ダッシュボード」(https://dashboard.e-stat.go.jp/)。定義文・系列数・分野一覧はいずれも2026年8月17日に同サイトで確認した記載です。数値・掲載内容は更新されるため、必ず原典をご確認ください。

e-Statとの違いは「登録の要否」に出る

統計ダッシュボードと e-Stat は、どちらも政府の統計サイトで、URLも同じ e-stat.go.jp の系列です。混同されやすいのですが、公式サイトに「e-Statとはこう違う」と書いた比較の記述は見当たりませんでした。そこで、実務で効く違いを自分で確かめた範囲でまとめます。

最も大きいのはAPIの入口です。統計ダッシュボードのAPI説明ページには、はっきりこう書かれています。

「本APIは利用登録不要で、誰でもお使いいただけます。」

一方 e-Stat のAPI利用ガイドは、「API機能をご利用いただくには、政府統計の総合窓口(e-Stat)のユーザ登録が必要ですので」とし、さらに「政府統計の総合窓口(e-Stat)のマイページにログインし、API機能(アプリケーションID発行)から、開発するアプリケーションごとにアプリケーション IDを取得してください」と手順を示しています。つまり、統計ダッシュボードは登録なしでいきなり叩ける/e-Stat は登録とID発行が要るという差です。

社内で誰かに「この数字を毎月自動で取ってきて」と頼むとき、この差はそのまま着手までの時間になります。試しに1回取ってみる、という段階では統計ダッシュボードのほうが速いということです。

統計ダッシュボードのAPIは REST方式で、公式には6つの機能が挙がっています。統計メタ情報の取得が5種類(系列・地域・用語・社会事象・統計調査)と、統計データ取得が1つです。出力は「XML、JSON、CSV等」、統計データ取得は「JSON-stat形式でも公開」とされています。

項目統計ダッシュボードe-Stat
位置づけ(公式の記述)主要統計をグラフ等に加工して一覧表示するシステム政府統計の総合窓口
API利用登録不要(公式に明記)ユーザ登録+アプリケーションIDが必要
収録量約6,000のデータ系列—(原表単位のため単純比較できない)
地域の最小単位市区町村(後述の実測)調査により小地域・メッシュまで

右端の列を「—」にしているのは、e-Stat が原表をそのまま配る仕組みで、系列という単位で数えられないためです。収録量の大小として比較できるものではありません。

地域は市区町村まで。APIで実測した

ここがこの記事の本題です。答えは公式のAPI仕様に書かれていました。系列要素コードの構成を説明する箇所です。

「22~23桁 = 地域階級(01:国、02:全国(日本)、03:都道府県、04:市区町村)」

地域階級は4つしかありません。町丁目のコードも、メッシュのコードも、そもそも定義されていないということです。ヘルプ側にも「データ周期(月、四半期、年、年度)や地域階級(各国、日本、都道府県、市区町村)の切り替え機能」という同じ趣旨の記述があります。

仕様だけでなく、実データでも確かめました。2026年8月17日に系列のメタ情報を全件取得したところ、系列は5,822件あり、それを地域階級ごとに数えると次のようになりました。

地域階級系列要素の数
全国(日本)6,915
都道府県5,036
市区町村1,219
265

出てきた区分はこの4つだけで、仕様の記載と一致しました。市区町村より細かい単位は、仕様にもデータにも存在しません。

そしてもう1つ、実務でつまずきやすい事実がここから出てきます。市区町村の粒度を持っている系列は、5,822系列のうち1,126系列(約19%)だけです。「市区町村まで見られるサイト」と紹介されることが多いのですが、すべての統計が市区町村まで降りてくるわけではありません。5つに1つ、という感覚で臨むのが正確です。市区町村まで取れる系列は社会・人口統計体系、消費者物価指数、国勢調査、経済センサスなどに偏っています。

なお、地域の一覧そのものを取得すると、市区町村のレベルには4,680件が登録されていました。現在の市区町村数より多いのは、「(旧)札幌市」「(旧)広島町」のように合併前の旧市町村が併記されているためで、過去の時系列を追えるようにする設計です。集計に使うときは二重に数えないよう注意してください。

1
市区町村までで足りる作業

出店候補を都道府県や市のレベルで絞り込む段階、人口の増減や所得の相場で市場の大きさを比べる段階は、この粒度で足ります。むしろグラフが用意されているぶん速い。

2
市区町村では足りない作業

候補地を1つに決めたあと、その地点の半径800mや2kmに何人いるかを数える段階です。政令市の区でも十数万人規模なので、商圏の大きさと単位の大きさが逆転します。ここから先は統計ダッシュボードでは扱えません。

3
切り替え先

町丁目単位なら国勢調査の小地域集計、円や到達圏で数えるなら500mメッシュです。手順は町丁目の人口を調べる方法国勢調査の500mメッシュ人口を無料で入手する手順にまとめています。地図上で操作したい場合はjSTAT MAPの使い方とできること・できないことを参照してください。

参考までに、見晴のデモに入っている店舗で商圏の広さを比べると、同じ地点でも徒歩10分で約1.7万人、半径4kmで約32.1万人、車15分で約37.6万人でした(2026年7月23日時点・夜間人口ベース)。比にして約22倍です。市区町村という単位はこのどこにも当てはまらないことが分かります。円商圏と実際の商圏のズレについては円商圏と実勢商圏はどれだけズレるかで扱っています。

商圏分析での使いどころと切り替えどき

ここまでを踏まえると、統計ダッシュボードの使いどころは「候補地を決める前」に集中します。順序としては次のようになります。

検討の段階知りたいこと統計ダッシュボード
エリアを選ぶどの市に出すか。人口は増えているか、所得の水準はどうか向いている
候補地を並べるその市の中のどこか。駅前か郊外か不足(市区町村より下が無い)
候補地を評価するこの地点の商圏人口は何人か。競合は何店あるか不向き
出店後に説明する市場の推移を第三者に示す向いている(グラフをそのまま引用できる)

最後の行は見落とされがちですが実務では役に立ちます。金融機関や本部への説明資料で「この市の人口は減っているのか」を問われたとき、加工済みのグラフと出典がそのまま使える形で存在しているのは強みです。競合の数え方は経済センサスの事業所数とは?競合の数え方、人口の性格の違いは住民基本台帳人口とは?国勢調査との違いで補えます。

注意:統計ダッシュボードは既存の統計を集めて見せるサイトなので、元の統計より新しい数字が出てくることはありません。国勢調査に由来する系列であれば、元の調査の公表時期に従います。年次は必ずグラフの脇の表記を確認してください。

出典の書き方(公共データ利用規約1.0)

提案書や社内資料に転載するときのルールも確認しておきます。統計ダッシュボードのコピーライトポリシーは、「当サイトで公開している情報(以下「コンテンツ」といいます。)は、権利表記の記載がない限り「公共データ利用規約(第1.0版)」(PDL1.0)が適用されています。」としたうえで、出典の記載方法を指定しています。

示されている書き方は「出典:統計ダッシュボード(https://dashboard.e-stat.go.jp/)」で、URLはリンク形式でも構わないとされています。加工して使う場合については、「編集・加工等を行ったこと及びその主体を記載してください。なお、編集・加工した情報を、あたかも国又は府省等が作成した未加工のままであるかのような態様で公表・利用してはいけません。」とされ、記載例として「統計ダッシュボード(https://dashboard.e-stat.go.jp/)のデータをもとに○○株式会社作成」が挙げられています。

実務上は、グラフの下に2行入れておけば足ります。1行目に出典、2行目に「株式会社◯◯が加工して作成」と書く形です。数字をこちらで丸めたり、期間を切り出したりした時点で「加工」に当たりますので、そのまま貼っていない限りは書いておくのが安全です。

e-Stat と混同しない点:統計ダッシュボードは公共データ利用規約(第1.0版)、e-Stat 本体は政府統計の総合窓口(e-Stat)利用規約で、こちらは「政府標準利用規約(第2.0版)に準拠しています。」と明記されています。別の規約なので、出典の文言も「出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)(https://www.e-stat.go.jp/)」と書き分けが必要です。どちらから取った数字かで使い分けてください。

APIを使ったサービスを外部に公開する場合は、さらにクレジット表示が求められています。指定されている文言は「このサービスは、統計ダッシュボードのAPI機能を使用していますが、サービスの内容は国によって保証されたものではありません。」で、表示場所の指定はないとされています。社内ツールに留まる場合は該当しませんが、顧客向けに出すなら必要です。

よくある質問

統計ダッシュボードとe-Statはどちらを使えばよいですか?

目的で分かれます。市区町村までの数字をグラフで手早く見たいなら統計ダッシュボード、原表そのものや小地域・メッシュのデータが要るなら e-Stat です。APIを使う場合、統計ダッシュボードは「本APIは利用登録不要で、誰でもお使いいただけます。」とされており、e-Stat はユーザ登録とアプリケーションIDが必要です。

町丁目やメッシュの人口は取れますか?

取れません。公式のAPI仕様が地域階級を「01:国、02:全国(日本)、03:都道府県、04:市区町村」の4つと定めており、町丁目もメッシュも定義されていないためです。2026年8月17日に全系列のメタ情報を取得して実際に数えたときも、出てきた区分はこの4つだけでした。町丁目は国勢調査の小地域集計、メッシュは同じく国勢調査のメッシュ統計から取得してください。

どの統計でも市区町村まで見られますか?

見られません。2026年8月17日の実測では、市区町村の粒度を持つ系列は5,822系列のうち1,126系列で、全体の約19%でした。市区町村まで取れるのは社会・人口統計体系や消費者物価指数、国勢調査、経済センサスなどに偏っています。目当ての統計が市区町村まで降りてくるかは、系列ごとに確認が必要です。

収録されている統計はどれくらいの量ですか?

公式の説明ページとAPIのページに「約6,000のデータ系列」と記載があります。分野はトップページで17に分かれています。なお統計局の別ページには提供開始当時の「約5,000」という記述が残っているため、引用するときはどのページの記載かを添えてください。系列という単位は e-Stat の原表とは数え方が違うので、収録量の多い少ないを両者で比べることはできません。

市区町村の一覧に「(旧)◯◯市」が混ざっているのはなぜですか?

合併前の旧市町村を残して、過去の時系列を追えるようにしているためです。実測では市区町村レベルの登録が4,680件あり、現在の市区町村数より多くなっています。集計に使うときは、旧市町村を二重に数えないよう注意してください。

ダウンロードはできますか。件数の上限はありますか?

できます。グラフ画面からは表示中または全期間のデータをCSV(UTF-8)で保存でき、「データで見る」の検索結果からもダウンロードできます。検索結果の画面には「最大15000件まで表示可。最大100万件までダウンロード可」と表示されます。なお色分け地図は都道府県別のみで、市区町村の色分け地図は表示できません。

資料に転載するとき、出典はどう書けばよいですか?

コピーライトポリシーが示す形は「出典:統計ダッシュボード(https://dashboard.e-stat.go.jp/)」です。編集・加工した場合は、その旨と加工した主体を併記します。加工した情報を、国や府省が作成した未加工のものであるかのように見せることは禁じられています。

APIの使いすぎで止められることはありますか?

公式には「短時間における大量のアクセス等により、本APIの運営、又はネットワークやシステムを妨害する行為は行わないでください。」とあります。具体的な回数制限の数値は示されていません。月次で数十回取得する程度の使い方であれば問題になる水準ではありませんが、まとめ取りをする場合は間隔を空けてください。

統計ダッシュボードだけで出店判断はできますか?

できません。出店判断で最後に効くのは地点の商圏人口と競合の配置で、そのどちらも市区町村単位では判断できないためです。統計ダッシュボードはエリアを絞るところまでに使い、地点の評価には小地域集計・メッシュ・地図ツールを併用してください。