候補地の資料に「この街は昼間に人が増える」と書きたいとき、根拠になる数字が昼夜間人口比率です。1つの数字で昼と夜の人口の増減が言えるので、出店計画書でもよく使われます。

ただし、この指標は通勤・通学の移動だけを見ています。買い物客も観光客も入っていません。ここを知らずに「昼夜間人口比率が高い=昼の商売が成り立つ」と読むと、判断を外します。この記事では国勢調査の定義から求め方を確認し、実測値でスケール感をつかんだうえで、商圏分析で使うときの線引きを整理します。データ入手から出店判断までの全体像は商圏分析のやり方 完全ガイドにまとめています。

結論

昼夜間人口比率は(昼間人口/夜間人口)×100で求めます。国勢調査の定義で、昼間人口は「夜間人口−流出人口+流入人口」、つまり通勤・通学による移動だけを足し引きしたものです。総務省統計局は昼間人口について「なお、夜間勤務及び夜間通学の者も昼間人口に含まれているが、買い物客や観光客などは含まれていない」と明記しています。したがってこの指標が答えているのは「この街に働きに来る人・学びに来る人が多いか」であって、「昼に消費する人が多いか」ではありません。

この記事の要点
  • 式は(昼間人口/夜間人口)×100。100を超えれば昼間人口が多い、下回れば少ない
  • 昼間人口=夜間人口−流出人口+流入人口。流出入は通勤・通学者だけを数える
  • 統計局は「買い物客や観光客などは含まれていない」と明記している
  • 令和2年国勢調査の実測は、都道府県で東京都119.2が最高・埼玉県87.6が最低、市区町村で東京都千代田区1,753.7が最高・宮城県七ヶ浜町66.2が最低
  • 夜間人口が小さい自治体は分母が効いて比率が跳ねる(福島県大熊町は昼間5,827人/夜間847人で688.0)

求め方は割り算ひとつ

出典は国勢調査の「従業地・通学地による人口・就業状態等集計」です。総務省統計局が公表している令和2年国勢調査の結果の概要(令和4年7月22日)は、用語の解説で次のように定義しています。

[例:A市の昼夜間人口比率の算出方法]A市の昼夜間人口比率=(A市の昼間人口/A市の夜間人口)×100

そして読み方についても、「100を上回っているときは昼間人口が夜間人口を上回ることを示し、100を下回っているときは昼間人口が夜間人口を下回ることを示している」と書かれています。

分母の夜間人口は、そのまま常住人口です。統計局の定義は「調査時(令和2年10月1日)に調査の地域に常住している者をいう」で、いわゆる住んでいる人の数を指します。町丁目単位で常住人口を拾う方法は町丁目の人口を調べる方法。小地域集計の使い方にまとめています。

計算そのものは割り算1回なので、必要なのは昼間人口と夜間人口の2つだけです。どちらもe-Statで市区町村単位まで公表されています。取得の手順と、昼間人口・夜間人口それぞれの意味は昼間人口と夜間人口の違いと調べ方で扱っています。

昼間人口の中身は通勤・通学だけ

この指標を正しく使うために、分子の作り方を押さえておく必要があります。統計局の定義はこうです。

[例:A市の昼間人口の算出方法]A市の昼間人口=A市の夜間人口−A市からの流出人口+A市への流入人口

そして注釈で、流出人口は「A市からA市以外への通勤・通学者数」、流入人口は「A市以外からA市への通勤・通学者数」と限定されています。

さらに定義本文には、この記事でいちばん大事な一文が置かれています。

なお、夜間勤務及び夜間通学の者も昼間人口に含まれているが、買い物客や観光客などは含まれていない

つまり昼間人口は、その市区町村に職場か学校がある人の数です。近隣から買い物に来る人、駅で乗り換えるだけの人、観光で訪れる人は1人も入っていません。商業地の集客力を測る指標として読み替えると、この差がそのまま誤差になります。

参考までに、令和2年の全国の内訳を挙げておきます。総人口1億2614万6千人のうち、従業地・通学地が「自市区町村」の人が4712万3千人(総人口の37.4%)、「他市区町村」が3305万1千人(26.2%)、「従業も通学もしていない」が4597万2千人(36.4%)でした。3人に1人以上は、そもそもこの移動に参加していません。高齢者・専業主婦(主夫)・未就学児などが該当します。日中の実際の人の動きを見たい場合は、人流データという別系統のデータがあります。使える範囲と限界は人流データとは?無料で使える範囲と限界で整理しています。

実測値でスケール感をつかむ

数字の幅を知っておくと、自分の候補地の値が高いのか低いのかを判断しやすくなります。令和2年国勢調査の実測値です。

都道府県では、東京都が119.2で最も高く、次いで大阪府(104.4)、京都府(102.0)。100を超えたのは16都府県でした。低いほうは埼玉県が87.6で最下位、次いで千葉県(88.3)、神奈川県(89.9)です。平成27年と比べると30道府県で上昇、17都府県で低下しており、最も上昇したのは奈良県の0.5ポイント、最も低下したのは東京都の0.9ポイントでした。

都道府県のレンジはおおよそ88から119で、意外に狭いことが分かります。範囲が広いほど流出入が打ち消し合うためです。市区町村まで下ろすと、様子が変わります。

順位市区町村昼間人口夜間人口昼夜間人口比率
高い1位東京都千代田区1,169,399人66,680人1,753.7
高い2位福島県大熊町5,827人847人688.0
高い3位大阪府大阪市中央区535,834人103,726人516.6
高い4位東京都中央区771,583人169,179人456.1
高い5位東京都港区1,181,809人260,486人453.7
低い1位宮城県七ヶ浜町12,006人18,132人66.2
低い2位東京都狛江市57,407人84,772人67.7
低い3位神奈川県川崎市宮前区159,518人233,728人68.2
低い4位埼玉県富士見市77,112人111,859人68.9
低い5位愛知県大治町22,662人32,399人69.9

ここで注意したいのが2位の大熊町です。比率は688.0と非常に高いのですが、夜間人口が847人しかありません。分母が小さいと、流入がわずかでも比率は大きく振れます。比率だけを見て「千代田区に近い集客力がある」と読むのは誤りで、比率と実数は必ずセットで見る必要があります。表に昼間人口と夜間人口の実数を並べたのはそのためです。

東京23区に限ると、千代田区が1,753.7で最も高く、練馬区が72.2で最も低くなっています。次に低いのは江戸川区(74.5)、杉並区(76.1)で、12区で昼間人口が夜間人口を上回っています。なお23区は平成27年と比べて全区で低下しており、最も下がったのは千代田区の123.7ポイントでした。

商圏分析でどう使うか

この指標が本当に効くのは、候補地を「働きに来る街」か「帰ってくる街」かに仕分ける場面です。同じ人口規模でも、この2つは打ち手がまったく違います。

比率の水準街の性格効きやすい業態・打ち手
おおむね120以上流入超過。オフィス・学校が集まる平日昼のランチ、単価の低い日常利用。土日と平日で客数が大きく変わる前提で設計する
おおむね95〜105職住が近い、または流出入が均衡平日と休日の差が小さい。週を通した安定運営がしやすい
おおむね80以下流出超過。住宅地として機能している夕方以降と土日に来店が寄る。平日昼を主戦場にしない

この水準の区切りは実測値のレンジから引いた目安で、公的に定められた区分ではありません。自分の候補地が属する都道府県・市区町村の実測値を並べ、その中での相対位置で判断してください。

実務で使うときの順番は次の3つです。

  1. まず夜間人口(=商圏人口)を数える。これが土台です。円で切るか到達圏で切るかで母数は大きく動きます。算出の手順は商圏人口の調べ方。無料で算出する4ステップ、粒度をそろえたい場合は国勢調査の500mメッシュ人口を無料で入手する手順にまとめています
  2. 次に昼夜間人口比率で時間帯の偏りを見る。市区町村単位の数字なので、商圏より広い範囲の傾向として扱います。商圏の切り方そのものは一次商圏・二次商圏とは?距離の目安と決め方で扱っています
  3. 最後に事業所数で裏を取る。比率が高い理由が事業所なのか学校なのかは、経済センサスの事業所数を見れば分かります。手順は経済センサスの事業所数とは?競合の数え方にあります

出店計画書に載せるときは、数値・年次・出典・単位をセットで書いてください。「昼夜間人口比率119.2(令和2年国勢調査・東京都)」のように書けば、読み手が同じ数字にたどり着けます。計画書の各欄の埋め方は出店計画書の書き方。商圏データで埋める3欄にまとめています。

この指標で分からないこと

限界を4つ挙げます。どれも「使ってはいけない」という話ではなく、ほかのデータで補う場所の話です。

  • 買い物客・観光客が入らない。統計局の定義どおりです。商業地の日中の来街者を見たいなら、通行量や人流のデータが必要になります。通行量調査の実情は通行量調査とは?やり方と公的データの限界で扱っています
  • 市区町村より細かくは出ない。公表単位は市区町村までです。同じ区のなかでも駅前と住宅地では性格が違いますが、その差はこの指標では見えません
  • 時間帯が分からない。「昼間」と名前は付いていますが、実際は勤務地・通学地の集計であって、何時に何人いるかを示すものではありません
  • 5年に1度しか更新されない。直近の確定値は令和2年(2020年)です。オフィスの新設や大学の移転があった地域では、実態とのズレが年々広がります。将来の人口の見通しは将来推計人口とは?市区町村別の調べ方で別途確認してください

とくに2つ目の「市区町村より細かくは出ない」は、出店判断では効いてきます。区の平均値が高くても、候補地がその区の住宅地側にあるなら、平日昼の来店は期待できません。比率は街の性格を掴むための道具で、地点の判断は商圏人口と競合の配置で行う、と役割を分けておくのが安全です。統計サイトの数字をそのまま鵜呑みにしない考え方は統計ダッシュボードの使い方と商圏分析での限界でも触れています。

よくある質問

Q. 昼夜間人口比率の求め方を教えてください。
A. (昼間人口/夜間人口)×100です。総務省統計局は令和2年国勢調査の結果の概要で「A市の昼夜間人口比率=(A市の昼間人口/A市の夜間人口)×100」と示しています。100を上回れば昼間人口が夜間人口を上回り、下回れば昼間人口のほうが少ないことを表します。昼間人口と夜間人口はどちらもe-Statで市区町村単位まで公表されているため、必要なのは割り算1回だけです。

Q. 昼間人口には買い物客も含まれますか。
A. 含まれません。総務省統計局は昼間人口の定義に「なお、夜間勤務及び夜間通学の者も昼間人口に含まれているが、買い物客や観光客などは含まれていない」と明記しています。昼間人口は「夜間人口−流出人口+流入人口」で求め、流出入として数えるのは通勤・通学者だけです。商業地の日中の来街者を見たい場合は、通行量調査や人流データなど別のデータで補う必要があります。

Q. 昼夜間人口比率がいちばん高い自治体はどこですか。
A. 令和2年国勢調査では東京都千代田区の1,753.7が最も高く、昼間人口1,169,399人に対して夜間人口は66,680人でした。次いで福島県大熊町(688.0)、大阪府大阪市中央区(516.6)、東京都中央区(456.1)、東京都港区(453.7)と続きます。最も低いのは宮城県七ヶ浜町の66.2で、次いで東京都狛江市(67.7)、神奈川県川崎市宮前区(68.2)です。都道府県では東京都の119.2が最高、埼玉県の87.6が最低でした。

Q. 比率が高ければ商売に有利ですか。
A. そうとは限りません。比率が高いのは通勤・通学の流入が多いという意味なので、平日昼に強い業態には追い風ですが、土日は人が消えます。また分母が小さい自治体では比率が跳ねます。福島県大熊町は688.0と非常に高い値ですが、夜間人口は847人です。比率だけで判断せず、昼間人口と夜間人口の実数を必ず並べて確認してください。